バッドトリップ! | ナノ
28

料理に奮闘した結果、私が帰宅したころにはすっかり夕方になっていた。玄関の扉をあけると、既に夕食作りが始まっているらしくトントントンとまな板の音がした。

「ただいまー」
「おかえり。あら、結局カレーにしたの?」

台所に入るやいなや母さんに問われる。臭いがついていたのだろうか。すんすんと自分の腕をかいでみるが、嗅覚が麻痺しているのか全く分からない。

「うん。簡単だし、たくさん作ればしばらく食べられるし」
「なるほどねえ。ええと、跡部くんだったかしら?他に困ってることがあるなら手伝ってあげなさいね」
「そのつもり。ねえ、母さん」

母さんがタマネギを細かく刻んでいく。私はその手元をじっと見つめた。今日一日で嫌というほどわかった。料理は大事だ。料理は偉大だ。……そして、料理は困難だ。

「料理、教えてくれない?」
「なあに、突然。もしかしてカレー作りが上手く行かなかった?」
「うぐ」

母さんは私の顔すら見ていないのに察したらしくクスクス笑っている。バレた。
私は跡部と行ったまな板の上の格闘技、もとい料理を思い出して頭を抱えたくなった。まず、野菜が均等に切れない。包丁と格闘したあげく敗北を喫した私と跡部は、話し合いの結果、「野菜の大きさなんてどうでもいいさ。とにかく煮込もう」という結論に達した。そして煮込んだ結果、大きさが不揃いすぎたせいで、しっかり火の通った野菜と固い野菜が混在するハメになった。
もっとも、味見をした跡部曰く「これならまだ食べられる」。ほっとした表情で言っていたのが印象的だった。

「そうね、いい機会だから夕飯作りを手伝って頂戴」
「うん、わかった」

おいしい食事は人生のキホン。これから大変なんだから、せめておいしい食事が食べられるようにしたい。


***


宿題をし忘れたことに気が付いて、夕食後、私は慌てて自室の机に向かった。いつもなら土曜日にすませてしまうのだけど、今回は頭が跡部の件でいっぱいで、すっかり忘れていた。
しばらく頭をひねってうんうんうなり、ようやく宿題が終わりそうになったころ、スマホが鳴り始めた。見れば「跡部景吾」と表示されている。

「もしもし。どうしたの」
「おい、なんだこれは!?」
「はあ?何のこと」
「何のこと、じゃねえ!」

声を聞いて、跡部が額に青筋を立てている様子がありありと脳裏に浮かんだ。しかしなんでこんなに怒っているのかさっぱり分からない。

「風呂に入ろうと思ったら、なんだこれは!」
「だから、何がよ」
「とぼけんな!

……お前が買ったトランクス、全部くまさん柄じゃねーの!」
「あ」

そうだった。跡部に下着を選ばされた私は、半分腹いせにすべての下着をくまさんトランクスにしたんだった。

「てめえ……」
「あれ、気に入らなかった?全部ちゃんと色違いにしたでしょ。ぷぷっ」
「気に入らなかった?じゃねえ!自分でも笑ってんじゃねえか」
「いいじゃんいいじゃん。私の弟もくまさんトランクスだよ?」
「……お前の弟、いくつだ?」
「10歳」
「ふざけんな!」

私はこらえきれなくなってゲラゲラ笑った。息が苦しい。跡部がスマホの向こうでなにやら文句を言っているが笑いすぎて全く聞こえない。
ひとしきり笑ってようやく落ち着いたころ、私は跡部に声をかけた。

「ごめん、笑いすぎて何も聞いてなかった」
「……」
「でもさ。跡部、私をメス猫1号にしてくれるって言ったじゃん。俺様の専属メイドになれとも言ったじゃん」
「それがどうした」
「あなたのメス猫1号兼専属メイド様が選んだんだから、ありがたく受け取ってよね」
「……チッ」

跡部のことだ、下着選びを私に任せた以上は仕方ないと納得してしぶしぶ身につけるに違いない。
その様子がありありと想像できて、私は跡部に聞かれないようにこっそり忍び笑いをした。


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くまさんトランクスを履く跡部、というネタが書きたくてパンツネタを入れたのです。

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