バッドトリップ! | ナノ
26

ニンジン、タマネギ、ダイコン、ジャガイモ。包丁とまな板。斎藤宅の台所に仁王立ちになって、私は黄色い箱を勢いよく掲げて高らかに宣言した。

「よし完璧。跡部同志よ、これより『ちゃんと食べられるものを作ろう★大作戦』を開始する!所定の位置にて待機せよ!」
「……ずいぶん作戦の目標が低いが、お前はそんなに料理が苦手なのか?」
「達成できる目標でいいのよ。初心者なんだから難しいことはナシ」

跡部は今までで一番不安そうな顔をしていた。失礼なやつめ。私は自信満々に腕を組んで跡部を鼻で笑い飛ばした。

「大丈夫だよ、学校で何回も調理実習受けてるし。一緒に料理して跡部もできるようになろう」
「何を作るんだ?」
「カレー。はい、これがルーね」

私は手にしていたポンカレーの箱を跡部に差し出した。掌を返して箱の裏を見せる。

「カレーなら作ったことあるし簡単だし。レシピもちゃんと箱に書いてあるし」
「ほう、便利だな。……ん?」
「え、どうかした」
「カレーを作るのか?」
「うん。嫌いだった?」

跡部は「いや」と言うと台所の作業台を指さした。

「カレーにダイコンを入れるのか?」
「あ」
「……」
「……。よ、よく気がついたね!レシピを見てダイコンが要らないことに気がつくかどうか試したんだけど合格だよ!!」
「素で間違えただけだろうが」
「な、な、なんでバレた!?さては眼力つかったな!卑怯だ!」

いくらなんでも心まで読まないでほしい。一緒にいるなら人の気持ちは読まないのがマナーだ。私は憤然と跡部に抗議したが、当の本人は白目をむいた。

「アーン!?使ってねえ!そんなもんお前の顔見りゃわかる。第一、眼力はそういう技じゃねえ!」
「え、違うの?頭の中までスケスケだぜ!みたいな」
「俺様に詳しいのか詳しくないのかどっちかにしろ。眼力は弱点を見抜く能力であって読心術じゃねえ」
「なーんだ。なんでもかんでも見抜ける超能力的なものかと思ったけど違うんだ」
「……俺様を何だと思ってやがる」
「跡部様。氷帝!氷帝!」

一回やってみたかった。拳を突き上げてノリノリで氷帝コールをすると跡部は気持ちよさそうに斜め上を向いて髪を書き上げた。私はこっそり吹き出す。かっこよさよりおもしろさが勝る。最高だ。いや吹いたことはばれてないばれてない。

「フッ、わかってるじゃねーの」
「でしょ?じゃあニンジンの皮むきよろしくね」
「……」

跡部にニンジンを手渡して自分はちゃっかりタマネギを確保した。タマネギはむきやすい。ニンジンは面倒だ。『跡部をいい気にさせて面倒なことを押しつけよう作戦』、成功である。……いやこれは単なる押しつけではなく優しさだ。だって跡部も料理できるようにならなければ食生活の安全が守れないのだ。私が毎回料理を作りにくるわけにはいかない。

「はい、包丁。持ち方分かる?」
「当たり前だ」

彼はムッとした顔をすると、白くて大きな手を包丁に伸ばした。


20141120

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ポンカレー、はわざとです。

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