バッドトリップ! | ナノ
21

跡部はようやく理解したようだった。
私は「それじゃ、エスカレーターのとこで待ってるね」と身を翻す。さっさとここから離れたかった。
別に、下着売り場そのものは平気なのだ。母さんと一緒に買い物に来て下の弟の下着を買ったことくらいはある。……問題は、跡部だってこと。さすがに同級生は恥ずかしい。友達だからと言っても嫌だ。

「ん?」

動けない。もしや、と振り返ると跡部がガッチリ私の腕を掴んでいる。
彼はなぜかドヤ顔をしていて、しかも自信ありげに爆弾発言を炸裂させた。

「いい考えがある。倉本、俺様の専属メイドになれ」
「は……ハアアアアア!?」

紳士用品フロアのど真ん中にいるというのに大声で叫んでしまい、あわてて口を押さえる。が、時すでに遅し。ちらほらいるお客さんにチラチラ見られている。
私は跡部に詰めよって、小声で捲し立てた。

「なにそれ!なんなのいきなり」
「ナイスアイデアだろ?」
「なんでやねん!」
「メイドは女だぜ?」
「男の娘は?男の娘メイドはいないの?」
「俺の家にはいねえな」
「そうなんだ、じゃあ榊先生の家にはいるかも……って違う!メイドが女だからなんだってのよ」

跡部は髪をかき上げた。サラリとさらつやヘアーが流れる。……私なんかよりも遥かに美しい。ムカつく男だ。

「使用人なら女でも問題ねえだろ」
「問題ないどころか何の話かわからないんですが」
「それなら恥ずかしくねえはずだ」
「なにが」
「メイドなら俺様の身の周りの世話をするのが当たり前だからな」
「まさかアンタ私をこきつかう気なの?救世主倉本はどこいった!?」

もうコイツわからん!調子が狂う狂わない以前に何か噛み合わない。お金持ちのボンボンなせいなのか跡部なせいなのかはわからないけど恐ろしい。
私が半分キレ気味でいると、跡部は突然真顔になった。

「んなわけねえだろ。下着くらいで慌てんなって意味だ。さあ、選ぶのを手伝え」

ようやく跡部が言わんとすることを理解した私は口から魂が抜けそうになった。つまり跡部の考えは、

同級生の女だから下着選びが恥ずかしい→身の周りの世話をするメイドなら下着選びでも恥ずかしくない→メイドになれ!

アホすぎる。

「なんで」
「アーン?」
「なんでそこまでして、私に選んでほしいの?」

とたんに跡部はバツが悪そうな顔になって私から目をそらした。

「選び方がわからねえ。今までオーダーメイドばかりだったからな」
「選び方って……そりゃ生地の質とか」
「俺様には全て似たようなレベルに見える」
「じゃあ模様とか色とか」
「どれも地味すぎて好みじゃねえ」
「……なら、値段は」
「あの『よりどり三枚いくら』って表記の意味がわからねえ」

頭がくらっとした。
下着を選ばせるために「専属メイドになれ」とはスケールがでかすぎる。
私は想定外の事態に間抜けな声を出した。

「跡部は恥ずかしくないの」
「見られて恥ずかしいことなんざねえよ」
「ソ、ソウデスカ……」

私は魂を飛ばしたままにすることにした。うっかり正気に戻ったら、恥ずかしさのあまり死にそう。


20141007

[back]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -