バッドトリップ! | ナノ
17

試着室から出てきた跡部を見て、私は唸った。
彼は黒いTシャツに濃い色のジーンズという超普通の格好である。おまけにこの店の商品だから上下ともに安物だ。にもかかわらず、跡部はまるで高級ブランド服を着ているかのような見えた。
要するに、驚くほど格好がよかった。

「なんで?おかしいよ!」
「地味だがおかしな組み合わせじゃねえよ」
「イヤそっちじゃなくて……ちょっと失礼」

私は跡部に近づくと無遠慮にシャツの裾を捲った。割れた腹がチラリと見えるが全力でスルーする。素早く服のタグを確認するが、間違いなくこの店の商品だった。

「お前、恥ずかしがってた割には大胆だな」
「それどころじゃないから」
「は」
「ちょっと跡部!次はこっちを着て」
「あ、ああ」

私は跡部にポリエステル製のペラッペラなワイシャツを勢いよく渡して試着室に押し込んだ。
本当だったら、庶民的な服装をして微妙な格好になった跡部を大笑いしてやるつもりだったのだ。いくらあの跡部でも……いや、あの高級感あふれる容貌の跡部だからこそ、「いかにも安物」な服を着たらチグハグで珍妙になるはずだった。なのに、この結果である。
ぜったいにダサくしてやる!庶民の厳しさを教えるのだ!
私は決意新たに拳を握った。

「……なに拳を握ってやがる」
「あ、終わった?」

跡部の声に笑顔で振り返る。さすがにあのポリエステルならダサく見えるに違いない!
私は試着室の前の彼を見てぱっかり口を開けた。

「ナンデ?」
「……『なんで』?」
「跡部、これ、さっき渡した服だよね?」
「ああ。思っていたほど悪くねえな。さすがに肌触りや仕立ては悪いが」
「な、なんで!?」

まるで絹のシャツのように見えた。
例の服を着た跡部は、ダサく見えるどころか恐ろしく上品に見える。この店の服を着ているのに、これじゃあ掃き溜めに鶴だ。

「なんだ、さっきから」
「跡部は跡部なのね……」
「アーン?当たり前だろうが」

私はがっくりとうなだれた。手強い。さすがキングだけあるらしい。跡部への復讐は次の機会にお預けだ。私は気を取り直して、鞄から予算表を取り出し金額を確認した。

「じゃ、買う服はここにあるのとそれでいい?まだ欲しいものある?」
「いや、十分だ」
「あっれー?倉本じゃん」

突然、後方から聞き覚えのある声がした。イヤな予感がして振り返ると、予想通り、気の強い苦手な同級生がこちらへ近づいてきていた。跡部は声に気がつかなかったのか、そのまま試着室に引っ込んでしまう。
無理やり笑顔になって挨拶を返すと、いつもは私のことなど気にもとめない彼女がやけに馴れ馴れしく話しかけてくる。

「あの人だれ?名前は?マジイケメンじゃん。彼氏?」

彼女の目はぎらぎらしている。彼氏かと尋ねておきながら「あんなイケメンを彼氏にするなんて生意気」とでも言いたげに見える。
私は顔がひきつりそうになるのがわかった。


20140923

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