バッドトリップ! | ナノ
16

最初に向かったの時計台公園からほど近い、カジュアルウェアの量販店だった。中学生が着る服を安くで買える店と言えばここしかない。今日は日曜日だがまだ朝早いせいか、店内はさして混んでいなかった。
跡部は入店するや否や珍しそうにあたりを見回した。そして入り口そばの棚に置かれていた紺のTシャツを無造作に手に取ると、感心したように呟いた。

「ずいぶん量が多いな。ほとんど似たような形なのに見本を細かく揃えるとは、やるじゃねーの」
「ね、たくさんあるでしょ。……ん?見本?」

よくよく聞くと何を言っているのか分からない。

「で、フィッターはどこにいるんだ?」
「……ふぃったー?」
「アーン?」
「え?」

沈黙。私と跡部はしばし見つめあった。けげんな跡部の瞳に、やはりけげんな私の顔が映っている。

「採寸しねえとサイズが分からねえだろうが」
「採寸?なんで?」

跡部はTシャツを広げてみせた。

「ここにあるもんは服の見本で、それぞれがサイズに合わせて服を作ってもらうんだろ?」
「はー!?」

私は予想外の言葉にぽかんと口を開けた。……私、この店を「量販店」って言ったよね?オーダーメイドできるお店などとは言ってないよね?ま、まさか、跡部は服と言えば全てオーダーメイドだと思っているのか!?
私は困惑顔の跡部に恐る恐る尋ねた。

「あのー、跡部。既製品って言葉、知ってる?」
「当たり前だ。車や家電製品は既製品が多いな」
「うん。服もね」

今度は跡部があっけに取られたような顔になった。

「……既製品でどうやってサイズを合わせるんだ?」
「ほら、タグ見て。Lって書いてあるでしょ。S、M、Lってサイズがあるの」
「微妙にサイズが合わなかったらどうすんだ」
「合わなくても我慢するのよ、庶民は」

跡部はショックを受けたような面持ちでタグを眺めていた。「そういえば前に宍戸がそんなことを」などとブツブツ言っている。宍戸さんはやっぱり庶民派らしい。
私は頭をかしげた。

「あれ?跡部は既製品を置いている服屋に行ったことないってこと?今までどうやって服買ってたわけ?」

跡部は商品を指先で撫でて生地を確認しながら、さも当然のように言った。

「家にファッションデザイナーを呼んで作らせるか、欲しい服のイメージを伝えて作らせていた」
「もしかしてそれが普通だと思ってた?」
「いや……だが誰でも採寸くらいはすると思っていた。安物ゆえに生地や仕立てが悪くとも、サイズ合わせはするだろう、とな」
「なるほどねー。やっぱり生粋のお金持ちは違うんだね。一回そんな体験してみたいわ」

格差がありすぎて笑いしか出てこない。こうして跡部の話を聞くのは新鮮な驚きでいっぱいだ。
私が素直に感嘆していると、跡部はぽつりと呟いた。

「俺は、もしかしたら……」
「ん?」
「いや、なんでもない」

跡部は何かを言いかけて口をつぐむ。なんとなく元気がなくなった跡部の様子を見て、私はそっとしておくことにした。追求をせずに、つとめて明るくパーカーを突きつけた。

「さ、試着試着!今日はたくさん買い物するから、頑張って選ばないとね」
「フン、そうだな」

跡部は素直に一つ頷くと、制服のシャツの上からパーカーを羽織った。


20140920

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