バッドトリップ! | ナノ
13

私はチラシの裏にボールペンで思い付くまま書きなぐった。

「えーと、服と下着類とハンカチ、靴、食器、布団は我慢してもらうとして、あとは」

私は家の中をぐるっと見回した。斎藤さん曰く、この家には二年前まで彼の両親が一緒に暮らしていた、とか。ゆえに、古い家だが物は揃っている。タオル類はいらなさそうだ。
跡部は私の手元を見て首をかしげた。

「予算からしてそんなに沢山は買えねえだろ」
「は」
「安い上着を一着買えるかどうかってとこじゃねえのか」
「……はああああ!?」

驚きのあまりバンッとちゃぶ台に手をついて叫んでしまった。数万もらって「安い」上着が一着て、どこの何様だよ!!……そうだ何さま俺さま跡部さまなんだった。
いきなり叫んだ私に跡部はぎょっと驚いたようだった。

「な、なん」
「アハハーそうだ忘れてた跡部なんだったアッハッハ。大丈夫わたし。がんばれ私。跡部に庶民のなんたるかを教えるのよ私!」
「おい、なんなんだ叫んだりブツブツ言ったり」

私は新聞の折り込みチラシの束を探って、適当なものを跡部に突きつけた。

「いい?跡部、一般庶民はそんなに高いものを着ないんだよ」
「あ、ああ」

跡部は私の勢いに気圧されてチラシを受け取り、物珍しげにまじまじと眺めた。

「このチラシ見て。全国チェーンの服の格安ブランドなの。新品の服を買うにしても、買おうと思えばこんな値段でも買えるのよ」
「……。単位間違ってるだろう」
「間違ってません。シャツなら最低数百円で買える。質は悪いけどね」

肩をすくめて釘をさす。跡部のことだ、きっと文句を言うに違いないと思っていたが、彼は予想に反して素直に頷いた。

「……ま、こうなった以上は仕方ねえな」
「アレ?」
「何だ」
「いや、肌触りが悪いと嫌だとかなんとか文句言われるかなーと思ってたから意外で」
「チッ、そこまで無理は言わねえよ。帰る方法を見つけるまでの我慢だからな、服くらい」

と、そこまで言って跡部は口をつぐんだ。そしてまたしょっぱい顔になる。本日2回目だ。
私は不思議な気分になった。まさか「あの」跡部のこんな純朴な素顔が見られるとは。

「なに?」
「服はいいが、食事がまずいのは我慢できねえ。もう少しどうにかならねえのか」
「あー、斎藤さん、食事内容が貧相になるとか言ってたね。何食べたの」
「焦げた何かだ」
「は?」

呆気に取られていると、跡部は斎藤さんから借りたらしい携帯をこちらに向けた。
画面には、黒ずんだナニかが白い皿に乗って写っていた。


20140912

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