バッドトリップ! | ナノ
11

斎藤さんは難しい顔で話を続けた。

「捜索願いの件も監視カメラの件も、それを周囲に報告したことも。今朝倉本さんの顔を見て微かに思い出した。君たちの話を聞くうちに記憶はどんどん鮮明になった。奇妙なことに」

斎藤さんは大きくため息をついて、頭をぐしゃぐしゃと掻いた。

「すまない。わけがわからないんだ、僕にも。跡部くんの保護者がこのまま不明なら、君は児童養護施設に入ることになる。しかしその手続きも一向に進んでおらず、宙ぶらりんだ」
「児童養護施設?」
「児童養護施設だと!?」

あの跡部が児童養護施設。衝撃を受けて思わず叫ぶと、跡部とハモった。跡部は先ほどまでとは別の意味で青ざめている。彼は斎藤さんには聞こえないくらいの小さな声で呟いた。

「そうなれば、行動はかなり制限される」

私は息を飲んで跡部を見た。言われてみればその通りだった。とすれば、歪みの原因を調べる――跡部が元の世界へ戻る方法を二人で調べるのも難しくなるかもしれない。
斎藤さんはこちらの様子に気がつかず話を進めた。

「釈然としないんだ。不可解だ。まるで――まるで、そう、大いなる神がこの事件を忘れさせようとしているかのような現状が。そんなこと、あるはずがないのに。何かがあるはずだ。何か秘密が」

斎藤さんにトリップの話をした方がいいのだろうか。正直に話して協力を仰ぐ、とか。
私が横目で跡部を見ると、跡部は私の考えがわかったらしく、首を横に降った。

「なあ、斎藤さん」
「なんだい」
「俺は、児童養護施設に入るのか」

斎藤さんは頭をあげた。私はごくりと唾を飲んだ。彼はしばし躊躇い、ゆっくりと口を開いた。

「本来はね」
「アーン?」
「先ほども言った通り、手続きが全く進んでいないんだ。そこで、提案がある」
「言ってみな」
「跡部くん、僕のうちに来ないか?」

私は目を見開いた。跡部も驚いたように身動ぎする。まさかこんな提案をされるとは予想だにしなかった。
斎藤さんは言い訳をするように、しかしはっきりと言葉を重ねた。

「このままでは、跡部くんの話は一向に進展しない。戸籍の手続きも家族を探すことも進まないまま、入院し続けることになりかねない。我ながら無茶苦茶だとは思っているよ。だが警官として、君を放置したくないんだ」

しばらく沈黙して、跡部は低く笑った。

「いいのか?」
「ああ。国から手当てがもらえるから生活費の心配はいらない。戸建てに一人で住んでいるから部屋もある。僕は料理が下手だから食事は貧相になるけど」
「さ、斎藤さん!私も何か手伝います!」

勢いあまって何も考えずに叫んだ。

「お前」
「ありがとう、倉本さん。しかし君まで巻き込むわけにはいかないよ。それに手伝うったって、僕の家と君の家は距離があるだろうし」
「斎藤さんはどちらに?」
「僕のうちは時計台公園のそばだ」
「え!?うそ、家とめちゃくちゃ近いですよ!私んちは時計台公園の南の区画です」
「ええっ!」

私たち三人は顔を見合わせた。そして、誰からともなく笑みを浮かべる。なんてラッキーなのだろう。それなら、まずは大丈夫だ。

「なら、跡部くんと倉本さんは中学も同じになるね。サポートを頼んでもいいかい?君が無理しない範囲でね」
「もちろんです!任せてください」
「ありがとう。なら、僕はさっそく跡部くんの退院手続きをしてくるよ」

斎藤さんは立ち上がった。跡部は慌てて斎藤さんに声をかけた。

「おい、俺様はもう出ていいのか?」
「体に問題はないからね。大丈夫だろ、たぶん」

静かにドアが閉まり、私たちはまた二人っきりになった。
私は立ち上がって跡部の真正面に立つ。跡部の真剣な目に、真剣な私が映る。

「跡部。頑張ろうね」
「ああ」

跡部はフッと嬉しそうに笑うと、私をぎゅっと抱き締めた。


20140907

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