紅龍の花 | ナノ
確信

すぐに電話をすると、ワンコールで貞治の声が聞こえてきた。

『起こしてしまったかな』
「ううん、起きてた。貞治はこれから朝練?後の方がいい?」
『いや、時間の余裕はあるから大丈夫だ』

それで、と貞治は相変わらず抑揚に乏しい声で続ける。私の心音はどんどん早くなる。彼に何を言われたわけでもないのに記憶をうっすら覆っていた幕は一枚一枚めくられ、どんどん明確になっていく。
夢に出てきた梅林と蓮二。そんなばかなと思っていた。でも、柳さんは言うのだ。『和歌がヒントだ』って。だから、もしかしたら。

『お前は本当に見たんだよ。赤い龍を』

私は目をつぶって深呼吸した。そうだ、最初から私はその正体を知っていたんだ。

「それって紅梅の花びら?」
「思い出したのか」
「ちょっとだけ、ね」

信じられなかった。でも、いくら考えてもそれしか答えがないのだ。あの夢がただの想像上の出来事なら、真実を思い出そうとすればするほど夢の記憶が薄れていきそうなものだ。なのに蓮二のことを思うたびに、より鮮やかに、夢で見た空を舞う一群れの赤い花びらを思い出すのだ。

「でも、どういうこと?桜ならまだわかるけど、梅の花が龍に見えるほど群れをなして飛ぶとは思えないんだけど」
「そうだ、蓮二からその話を聞いた子供の俺もまたそれを信じられなかった」
「え」
「ふむ、この先はまだ思い出していないのか」
「貞治も蓮二に聞いてたの?この話に先があるの?」

ああその後で、と言い掛けて貞治は口をつぐんだ。突然黙った彼に先を促したが、彼は少し笑いをこぼしただけだった。

『千香。材料は揃っている。後はお前が思い出すだけだ』
「それが出来ないから聞いてるんじゃない」
『柳さんとやらは、お前に自力で思い出してほしいと思っているのではないかな』
「へ?なんで柳さんが出てくるわけ。それに、なんでそんなこと分かるのよ」
『柳さんの行動を分析するとそうなるな』
「意味わからんよ」
『心配するな。もう思い出すだろうよ。ヒントはデータの検証、だな』
「はあ……」

私は携帯を握りしめたまま造花を手にとった。色褪せた薄い花びら。データの検証。今まで分かったことを調べ直せと?それとも。

『では、頑張れ。7月頭の関東大会初戦は』
「そうだよ、うち、青学と試合じゃん!見に行くつもりだけど、今回ばっかりは貞治を応援しないからね!」
『ふふ、仕方ない。また聞きたいことが試合の後にでも』
「うん、ありがと」

貞治の言う通りだ。記憶がすぐそこまで、出かかっている。


(20130515)
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もうちょっとだけ、続くんじゃ。

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