紅龍の花 | ナノ
邂逅

すらっと背の高いその人は、糸のような目をした整った顔立ちの青年だった。私よりずっと身長が高いのに威圧感もなく、まるで木のような静謐な物腰でそこに佇んでいた。

「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「街について調べ物とは、珍しい」

彼は静かな声でつぶやくように言う。その台詞からして司書さんに違いない。彼は私と同じ棚で作業をしていたのか私と同じくこの街の風俗や風習について書かれた本を大量に手に抱えていた。丁度いい、司書さんならもしかしたら知っているかもしれない。私が尋ねると彼は首をかしげた。

「この街で赤い龍の伝説?鳥の間違いではないのか。赤い鳥なら朱雀のことだろうが」
「いえ、龍です。たぶん」
「龍やみずちは水の神だからな。青いことはあるだろうが赤いというのはちょっと」
「あーあ、司書さんも知らないならダメかあ」

がっかりして肩を落とすと彼はあっさりこう言った。

「俺は司書ではないぞ」
「違うんですか!?な、なんかすみません」

私は驚いてぺこぺこと頭を下げた。一般の人に妙なことを尋ねてしまったらしい。なんて恥ずかしい、それによく話に付き合ってくださったものだ。そういえば彼は丁寧語を使っていない。司書さんなら丁寧に話すだろうに、なんで気がつかなかったんだろう。だが彼は気を悪くすることもなく私はその様子に安心した。

「構わない。それに、伝説はともかく赤い龍という言葉に聞き覚えがあるしな」
「え?」

彼はコートのポケットから棒状のものを取り出して、それに手を掛けた。私の口からは反射的に声が出ていた。

「その扇子!梅林で落ちてたやつ」
「何?拾ってくれたのはお前か?」
「たぶん。ハンカチに包まれていたなら私です」
「そうだったのか。ありがとう、これは大切なものだ」
「あの、その扇子にも赤い龍ってありましたよね。それ何なんですか?」

彼は私の顔をじっと見つめた。いや目が細いので見つめられているのか分からないがたぶん見つめられている。私も彼を見上げる。さらさらの黒髪。綺麗な曲線を描く柳眉。純和風の顔立ちときっちりとしたワイシャツの着こなしが彼を普通の青年とは少し違った雰囲気に仕立てていた。まるで、図書館にひっそり暮らしてそうな人だ。

「いや、これは、なんでもない。伝承などに関わるものではない、個人的なものだからお前の欲する回答にはならないだろう」
「そうですか……」
「ところで」

ハンカチを返したいのだが、どうすれば良いだろう。

(20121022)

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ずいぶん時間が空いてしまってごめんなさい。もう季節は梅じゃなくて金木犀。

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