紅龍の花 | ナノ
書棚

新しく友達になった子との会話が途切れたときにふと思いついて尋ねると、その子は目を瞬かせた。

「ねえ、うちの近くに住んでるんだよね?だったら梅林わかる?川沿いにあって、ちっちゃい和菓子屋さんのそばにあるやつ」
「アレね、わかるよ。行ったことないけど」
「そのあたりで赤い光とか赤い紐状のものとか見たことある?」
「ううん、ない」
「じゃあ、赤い何かに関する言い伝えとか伝説とかを聞いたことは?」
「うーん、知らないなあ。どうして?」
「ごめん、なんでもない」

私は慌てて手を振った。彼女は妙な質問に頭をかしげたものの、あまり気にしてる様子もなく話題を変えた。

新学期が始まって2週間。私はついに中学3年生になった。このまま氷帝学園高等部に進学するつもりだったから受験の心配はないけれど、中学校最後の1年かと感慨に浸る間もなく忙しい日々が続いている。中高一貫校特有のカリキュラムのせいで高校の範囲が授業に出てきて焦ったり、新しいクラスにドギマギしたり。それでもあの赤い龍、蓮二との思い出は、喉にひっかかった小骨のようにいつも頭の片隅で存在を主張していた。

私が、幼い私は確かに赤い龍を見た。子供だから勘違いしたり思いこんだりすることはあるだろうけれど、きっとあの梅林に何かがある。そういう思いが、梅林で扇子を拾ってからますます強くなった。あの扇子にも書いてあったじゃないか、赤い龍って。それにあの俳句、どうも見覚えがある。気がする。
もちろん本物の龍なんていないから、きっと赤い龍に見える何かを見たんだろう。赤い龍は何かの暗示なのかもしれないが子供に暗示が分かるとも思えない。と、いうことは。考えられるのは自然現象、か、赤い人工物。梅林付近で赤い光が見える場所があるとか、梅のてっぺんに赤い布をはためかせておく風習が実はある、とか。梅林で一番目に付く赤は「紅梅」だけど、梅の花は龍には見えないし。

そろそろ新しい生活に余裕が出てきた。今日の放課後でも街の図書館に行ってみようと決心して、私は目の前の優しい友人に微笑んだ。




目標は、街の歴史や風俗についての本が置いてある棚。いつもは図書館に来ても日本文学の棚か雑誌コーナーにしか行かない。こういうコーナーがあることは知っていたが普段は横目に見つつもスルーしていた。街の気候風土や言い伝えの本を調べれば、赤い龍について何かが分かるかもしれない。ざっと本の背を見て、関連しそうな本を探す。

「風土、気候、えーっと……」

見上げるとちょうど目線の先に良さそうな本がある。中を見たくて棚の上の方にあるそれに手を伸ばしたけれど、ぎりぎり届かない。あたりを見渡して利用者用の脚立を探す。ない。少し歩いて辺りを探したけれど、生憎使われている。仕方がない。
もといた場所に戻り背伸びをする。左手を棚について、精一杯伸びる手をまっすぐにのばすと指の腹が本の背に触れた。でも引っ張ることはできない。もうちょっと。もうちょっと。

突然、見上げた目の前に大きな手が伸びてきて、取ろうとしていた本がすっと抜き取られた。振り返ると、長身の青年が本を片手にこちらを見下ろしていた。


(20120827)
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あの人登場。

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