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越前の場合


背後からぼーんと豪快に叩かれて「よっ!」と元気な男の子の声が振ってきた。振り返ると桃城先輩がいた。髪の毛が相変わらず重力に逆らっている。さわやかで屈託のない彼は着ている制服がジャージに見えてくるほど全身からスポーツマンのオーラを出していた。

「あ、こんにちは」

そつなく頭を下げるが心の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。桃城先輩のことは知っている、彼も私を知っている。リョーマ繋がりで。逆に言えばその程度の関係で、ほとんどしゃべったことがない。なぜ彼は私に話し掛けたのだろうと思っていたら、彼はにやにや笑いながら妙なことを言った。

「愛だなあ」
「はい?」

ぽんぽんと肩を叩かれる。唐突な言葉に何を言っているのか全く理解できない。

「俺に聞いてきたんだぜ?真剣な顔しちゃって」
「え?」
「好意を無駄にしちゃいけねえよな。いけねーな、いけねーよ」
「何の話ですか」

彼はそこまで言い切ると「じゃーな」と言って走り去っていった。先輩、廊下は走っちゃいけません。なんて自由なんだ。彼が去った方向をぼんやり見ていると、今度は背後からまた誰かが走って近づいてくる音が聞こえた。

「優!」
「あ、リョーマ」
「何かなかった?」
「何か……?いや何も?どうしたの」
「それならいい。なんでもない」

私はリョーマをじろじろと見つめた。彼は猫のような目を反らしてなんだかばつの悪そうな面持ちだった。普段の自信にあふれてクールなリョーマとは違う。何かあったに違いないのだが、聞いたら話してくれるだろうか。桃城先輩と喧嘩をした……というわけではなさそうだ。

「今日はみんな変だね、桃城先輩といいリョーマといい」
「なっ、やっぱり何か言われたの!?何て?」
「愛だなあって。リョーマ何か知ってるの?どゆこと?」
「余計なことを……」

何がなんだか分からない。今日の彼はそわそわしている気がする。まさか、まさか……好きな人ができたんだろうか。だって「愛」って。それを桃城先輩にからかわれて、それで、とか。
心臓が嫌な鼓動を打ち始めた。本当にそうだったらどうしよう。私は相変わらず歯切れの悪い彼に詰め寄った。

「リョーマ、まさか好きな子でもできたの!?」
「なっ、違う!……いや……」

違う、ってほんとに?照れてるだけじゃないの?思わず疑わしそうな目で彼を見てしまう。
リョーマはため息をついた。

「優、先月チョコくれたでしょ」
「うん」
「初めてだったんだよね、日本式バレンタイン」

どういう意味。首をかしげると、彼は弁明するように説明した。

「日本のホワイトデーに当たる習慣、向こうにはない」
「えっ、そうなの!?」
「うん。だからどうしたらいいのかよく分かんなくて桃先輩に相談したらこうなった」

リョーマはもう一回、盛大なため息をついた。

「先走らないで欲しかったんだけど」

ここにはいない桃城先輩に向けてぶつぶつ文句を言いながら、斜めに掛けた鞄を探り出した。今度は正面から私を見る。

「はい、これ。……お返し」

手を伸ばす。手に箱の固い感触が伝わってくる。繊細そうなプレゼントをそっと持ち上げようとして、ちょっと彼の手に触れる。

「ありがと、……嬉しい!」
「うん」

再び目線をそらした彼は少々照れているように見えた。


(20120318)

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