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桃城の場合


朝練を終えて、桃城と越前は話しながらコートから出た。今日は朝から業者がコートに入るとかで、一応自主練に来たものの、いつもより早くコートから追い出されてしまった。1限までにはまだずいぶん時間に余裕がある。
今日は2月14日。言わずと知れたバレンタイン、いつもの数倍は女子も男子も煩くなる日が、朝の校内はまだ静かだった。桃城はにんまり笑う。

「さあて、今年はチョコ何個もらえっかな」
「ん、チョコ……?ああ、そういや日本では女子が男子にあげるんスよね」

越前は首をちょっと傾げて、そういや菜々子さんが言ってた、と付け加えた。

「そーか日本では初めてか?去年すごかったんだぜ、不二先輩が持ちきれねえくらいもらっててさ」
「ふーん、モテるんスね不二先輩。桃先輩はあんまもらえなかったんスか」
「なっ、俺をなめんなよ越前!結構もらったぜ、教室の机に入ってたりー……そ、そりゃ不二先輩に比べりゃ少ないけどよ」

勝負すっか?負けねーな、負けねーよ。そう意気込む桃城をさらっと流した越前は、怪訝な顔をしてある方向を凝視した。

「桃先輩、自転車のとこに誰かいる」

遠く、桃城が自転車を止めた駐輪場には確かに人影が見える。今の時間とまっている自転車は桃城のものだけで、しかも明らかに動きが不自然だ。何か調べているような動きで挙動不審だった。

「何?まさか自転車泥棒……なわけねーよな」
「そういや最近近所で頻発してるから気を付けろってウチの担任が……」

二人は顔を見合わせた。桃城はその瞬間「何やってんだ」と叫んでダッシュした。人影との距離が一気につまる。人影は振り向いた。――意外なことに、女。女は顔色をさっと変えると反対方向に走り始めた。
人を見て焦るなんて、やはりよからぬことをしていたに違いない。

「待て!」

桃城はますますスピードを上げる。女には校舎裏であっけなく追い付いた。腕を掴むと反動で女は尻餅をついた。桃城は逃がすまいがっちり腕を掴んだまま、しゃがんで身を乗り出した。

「お前、何やってたんだ?」
「なっなっなんでもないですっ!」

女は顔を真っ赤にして涙目になった。普通の反応ではない。ますます怪しい。桃城は眉を潜めて詰め寄る。

「なんでもないわけねーだろ。こっちは見てたんだぜ?何やってた」
「み、見てた!?なんでもないです、なんでもないですって桃城先輩!」
「ん?お前俺のこと知ってんのか」
「あっ」

女は狼狽してさって目をそらした。何だ、どういうことだ。桃城は女の視線をたどって……彼女の手にお洒落な紙袋が握られていたことにようやく気がついた。彼女は沈黙した桃城を見上げ彼の視線に気がつき、今度は青ざめた。

「あ、あの、これはですね……」
「チョコ?」

小さな桃城の指摘に、彼女はガックリと肩を落とした。そしてボソボソと呟く。

「私、越前くんと同じクラスの夏目優です。その、桃城先輩に……自転車のカゴに入れておこうかと……その」
「俺にか?」

彼女は頷く。桃城は最初こそあっけにとられたものの、徐々に顔がにやけてくる。可愛いじゃねーか、可愛いじゃねーの。同時に、尻餅をついたはずみに足にかすり傷を追わせてしまったことに罪悪感がわく。

「ありがとな。乱暴しちまって悪かったな」
「いえ、そんな」

桃城は彼女の手首を今度は優しく握り直すと、ぐるっと回して抱えあげた。

「ギャアアアア何するんですか!」
「血が出てんじゃん、保健室に」
「止めてください恥ずかしいです歩けます大丈夫です!!」
「ははっ走るぜ、俺のチョコ落とすなよ!」
「あっ夏目?」

彼女は自分を抱えた桃城が走り出した瞬間、こちらへやってきた越前に気がついた。彼はいつものクールな顔だったが……そのクールさゆえに遠慮なく今見たことを他の人に話すだろう。
彼女は目眩を感じて、内心こう思った。憧れの先輩に抱えられて大成功なはずなのに、嵐の予感しかしない。

(20110212)

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初・桃城で小ネタ。

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