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菊丸の場合


くつろぎモード、全開。今の私はもこもこのルームウェアを着て髪を適当にまとめ、部屋の真ん中で寝転がって雑誌を読んでいる。自堕落すぎる。でもいいのだ。出かける予定もない。人が来る予定もない。本当は友達や英二と遊びに行きたかったけれど皆忙しいようで断られてしまった。不運は重なるものだ。だから今日の私はふて腐れ気味で、ごろごろと自分を甘やかすことにした。まったくなんてバッドタイミングなのだ。特に、英二。今日はテニスの練習もない日なのに。久しぶりに一緒にゆっくりできるかと思ったのに彼は何かゴニョゴニョ言って煮え切らない様子だった。

突然部屋のドアがガーンと開いてでっかい何かが飛び込んできた。その物体はあろうことか私にへばりついた。

「サプライーズ!」
「ぎゃあああああ!!」

私は思わず雑誌で顔を半分隠し、ソレから身を引き離そうと部屋の隅まで後ずさって壁にぶつかった。私の足元にいるそれは温かく、イキモノであるらしい。しかも英二みたいな声だった。いや、雑誌の端からぴょこんとのぞく跳ねた髪先は彼のものだ。

「英二?」
「じゃーん、驚いた?」

私は雑誌を握りしめたままコクコクと頷いた。なんで英二。幼なじみで昔はうちによく来たけど最近はとんと来なかった。彼はいつ家に入ってきたのか、玄関の扉が開く音も部屋に近寄ってくる足音も全く聞こえなかった。どうなってるんだ。
まだ心臓がどきどき言っている。壁にぶつかった衝撃で乱れたのか、くくっていたはずの髪の毛がはらりと顔にかかった。そこで気がつく。私、今の格好部屋着じゃん。

「ちょっ、英二見ないで!」
「え?」
「部屋着だからっ」
「別にいーじゃん」
「よくないっ」

彼の背中を押して部屋からの退出を促したけれど、彼は私をひらりとかわしてまじまじと見てくる。くそう。見ないでって言ってるのに!

「髪くくってるのも新鮮!」

私は絶句した。英二がそういう台詞を吐くとは思っていなかった。なんとも言えない気分になって黙っていると、彼はあ、と言ってコートの中を探り始めた。

「ところで英二、何をしに来たの?」
「じゃじゃじゃじゃーん!」
「え、えっ?」
「ハッピーホワイトデー!!」

効果音つきで彼は私に何かを差し出した。

「わあっ!」
「探すの大変だったんだぞー」

彼の大きな手のひらの上には20cmくらいの熊のぬいぐるみが乗っていた。触ってみるとややピンクがかったその毛がふかふかで気持ちがいい。頭の方にひもが付いているからストラップなんだろう。めちゃくちゃ私好みだ。心の底から叫ぶようにお礼を言った。

「可愛い!ありがとう!」
「へっへー」

彼が得意気に鼻の下をこする。熊のぬいぐるみが好きな私は、お店で見かけるたびにチェックしていたけれどこの熊は見たことがない。遠くまで行って見繕ってきてくれたのかな。もしかして遊びに誘っても英二が断ったのは探しに行ってくれてたから?そう言えば最近はオフの日に誘ってもなかなか色よい返事がもらえなかった。何気なく言っているが本当に探すのが大変だったんじゃないか。
感極まって、ぬいぐるみをそっと抱き寄せる。

「ホントにありがとう、これ英二だと思って大切にするね!」
「えっ、俺!?」

彼は眉尻を下げて熊をまじまじと見た。

「えーっと、うーんと……熊が俺?」
「英二は熊っていうよりは猫だけど、ほら、英二の家に大五郎とかいるし」
「うーん」

ふかふかのぬいぐるみ。私は嬉しさのあまり、それを抱き上げてほおずりする。困った顔をしていた英二は私の様子をしばらく眺めてから、「まあいいか」と言った。

(20120323)

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