七色の雲 | ナノ

「……というわけだ、弦一郎。藤川、高橋、協力助かった」

「んーん、楽しかったし、ねえ、夏美?」

「うんうん。もどかしいんだよねーあの二人」


俺の説明を聞いた弦一郎はふむ、と納得した様子だ。真っ向勝負な体質の弦一郎に水面下の計略は向かない。だから事前に計画を説明しておかなかったのだが、それが彼をずいぶん混乱させたようだった。
平たく言えば、俺が長崎を好きなのだと精市に勘違いさせて長崎への気持ちを自覚させる、という簡単な話だ。彼から押さえ込まれた殺気に似た気配を感じて、余裕に見えるように演技をしながらも冷や汗が出た。幸村の本気はやはり恐ろしい。


「なるほど話は分かった、蓮二。が、理解できないことがある」

「どこがだ」


弦一郎はまっすぐに俺を見て、実に素直に言い放った。


「あの二人、幸村と長崎は付き合っているのだろう。なぜそんなに二人とも遠回しなのだ」


俺たちは顔を見合わせた。高橋も藤川もなんとも言えない表情を浮かべている。弦一郎は、現状をすっ飛ばして既に二人が付き合っていると信じてやまないようだった。


「いや、彼らはまだ付き合っていない」

「何だと?そうだったのか。……では、二人はいつ付き合い始めるのだ」


……弦一郎は、二人が付き合わない可能性があるとすら考えていないようだった。

俺は青い空を仰いでため息をついた。自分の気持ちをあまり把握しできていない精市と引っ込み思案な長崎の関係をいつももどかしく思っていた。だから少し背中を押してやろうとこんな計画を考えたのだが、もしかしたら俺がこんなことをするよりも弦一郎のこの威力抜群なド直球を二人にぶつけた方が良かったのかも知れない。全く、他人のデータを完璧に取るのは難しいものだ。

見上げた空に浮かぶのは、夏の命を感じる入道雲。


(20120107,fin)

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汐さん、光さん、たまごさん、ナツメさん、奏さん。リクエストありがとうございました!

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