10万Hit&バレンタイン企画 | ナノ
切原くんの場合


ふふふ、赤也め。私を甘くみるなよ。今日はばっちりだ。いつもは赤也の勢いとノリに乗せられて行動している私だけど、今日という日はひと味違うぞ。作戦だってばっちりだ。


「たのもーっ!失礼いたす!」


そう叫んで赤也の部屋に飛び込むと、突然の大声にびっくりしたらしい赤也が飛び起きた。もしゃもしゃの頭がいつも以上にもしゃもしゃになっている。何が起きたのか把握しようと必死で寝ぼけまなこをこすって、「優……?」とマヌケな声を出した。


「赤也殿!切原赤也殿とお見受けする!用があって参った!」

「はあ……?」

「日本男児たるもの寝坊するなぞふとどき千万!たるんどる!」

「な、なんだぁ、さなだ副部長……?」


赤也は驚いた顔のまま、半開きの目を必死でしぱしぱ瞬きさせている。優は赤也の言葉を聞いて、この上なく満足そうな顔をした。ふっふっふ。気がついたか。これぞ「サプライズバレンタイン★鬼の真田副部長大作戦」!
要は口調を真田先輩っぽくしてバレンタインのチョコを渡したら面白いんじゃないかと思ったってわけだ。いつもは赤也の勢いに負けちゃうけど、寝起きに襲撃アンド真田先輩の口調で赤也を倒せるはずだ!今日こそは打倒赤也!私のペースに乗せてやる!真田先輩のしゃべり方が「たるんどる」以外よく分かんなかったけど、昔っぽい話し方でいけばなんとかなるはずだ。


「早う起きんかうつけ者っ!王者立海の一員である以上、肉体を鍛え上げるとともにその精神の鍛錬をも怠ってはいかん!この拙者のごとく朝早くより参った客人を三つ指をつき玄関よりもてなすのが立派な男児たるべき切原赤也のすべき……」


とうとうと適当な言葉で語っている間に、優はちらっと赤也の様子を見た。


赤也は布団に潜り込んで寝ていた。


「こらーっ、赤也起きなさいよ!ちょっと聞いてよ!失礼なっ」

「んー、うるせ……」


赤也はますます布団に潜り込んで、もはや布団の先からもしゃ毛がちょっと見えるだけだ。優は口をとがらせて、ゆさゆさと布団ごと赤也をゆさぶった。


「あーかーやー!もう、せっかく作戦立てたのにーっ!」

「うー……」


突然ぱかりと布団がめくれると、優は赤也の隣にひっぱり込まれた。とっさに用意していたチョコレートを床に置いた自分にグッジョブと言ってあげたい。


「ぎゃあっ、ちょっと、赤也!」

「……一緒に寝りゃあ文句ねぇだろ……ううー」


空いた両手で赤也をばしばし叩くが、赤也は優を器用に毛布で簀巻きにすると、そのまま抱き枕代わりにした。布団に引きずり込まれるのは実は初めてじゃない。久しぶりではあるけれど。全くロマンティックじゃない。赤也はただ私を黙らせようとしただけだ。
気がついたら、また赤也のペースだった。なんということだ!せっかく真田先輩の口調にしたというのに全く効果がなかった。優は近くにある赤也の寝顔を見つつ考える。私には何が足りなかったんだろう?やっぱり眉間のしわ、っていうか怖い顔?低い声?いやいや、眉間はともかく声の低さを真似るのはムリムリ。あの強そうな肉体……はもっとムリ。それともあの丈夫な感じのオーラがないからダメなのかな?


「あーかーやー」


ここで大きい声を出すと、本当に毛布で口をふさがれそうな気がしたので小声で囁く。赤也はまどろみながら、うーと適当な返事をしてきた。
ていうか、何でこんなことになってるんだっけ?そう、バレンタインだバレンタイン。で?ただ渡すだけじゃなくてびっくりさせたかった、っていう。でも結局ムリだったなあ。寝起きを襲撃したのは失敗だったかもしれない。むしろちゃんと起きてる時の方が良かったのかも。


「うー……甘いにおいがする……」

「そうだよ、だって今日はバレンタインじゃん」


わかめ男は口の中で何やらむにゃむにゃつぶやいた。聞こえない。こんなんなら、乾燥わかめのチョココーティングでも持ってくるべきだった。必殺★わかめチョコレートカツラみたいな。でもちょっとめんどくさいかも。
赤也は軽く口をひらくと、目を薄く開けてにへっと笑った。


「へへ……俺って……もてもて?」


こんにゃろう、マイペース野郎め。あーあ、全戦全敗だ。結局どうやっても赤也のペースには飲まれてしまうらしい。なんだか嬉しくて、でも少し腹立たしくて、優は赤也に頭突きをかましたくなった。


(20110215)

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