10万Hit&バレンタイン企画 | ナノ
柳くんの場合


さて、今、目の前にチョコレートがある。渡すか渡さないかでは迷わなかった。誰になんと言われようとも渡したい。問題はそんなことじゃない。問題は、「このチョコが本命なのか、義理チョコなのか」ということだ。自分でもよく分からない。どっちなんだろう。

柳蓮二と親しくなってはや半年。一番変わったことは、彼について考えている時間が圧倒的に増えたということ。むしろ、いつも考えている。恋かと思ったけれど、どうも自分の中では腑に落ちないというかなんというか。恋にしてはあっさりしていて友情よりで、でも友情にしては恋よりで。彼に今恋人ができたら落ち込む気がするけれど、それだけだと恋とは言えない気もするし。

まあ何でもいい。よくないけど考えるよりも先にすべきことがある。とりあえず、他の女の子に彼が取り囲まれてしまう前にさっさと渡してしまおう。


「蓮二ー、あのさ、コレ」

「と言ってお前はチョコレートを俺に差し出す」

「……」


蓮二が人の行動を先読みするのはいつものことなのに、今日は愕然とした。確かに、ずっと渡そうとは思ってたけど。なんとなくバレンタインだとかクリスマスは彼のデータの予測する範囲から抜けていると思い込んでいた。なんでそう思い込んでいたんだろう。大人びた彼と女の子女の子したイベントが結びつかなかったからなのか。
彼は普段と変わらぬ表情のまま、ありがとう、と言ってチョコを私のてのひらから拾い上げた。


「なんだ、驚いてもらえると思ったのにあっさりしてるね」

「データではお前が今日の朝俺にチョコを渡す確率は97.3%だ」

「ええーっ」


予想外の反応と彼の言う確率の高さに、優は脱力した。本当にあっさりしているものだな。まあ友達だからかな、仕方無いか。もうちょっと別の反応を期待していたんだけど。それにしても97.3%って高すぎやしないか。ほぼ100%じゃないか。残りの2.7%が何なのか気になるけど、そんなに私の行動って単純で分かりやすいんだろうか。
ぐるぐる考えていると、沈黙が落ちた。顔を上げると彼はいつもの細目のまま、こちらを見ていた。目が合わないから本当に優を見ているのかは分からないけど、たぶんそう。彼はチョコを片手に無言だった。こちらの反応でも観察しているのだろうか、なんかシュールだ。


「あのさ、それ」

「『本命チョコなんだけど』とお前は言う。そしてそれが俺に一矢報いようとするための悪あがきである確率78%」

「……」

「残念だったな。そもそも、お前は俺にどんな反応を期待したんだ」


ひょうひょうとしている彼に優は口をつぐんだ。
びっくりしてほしかった。うん。驚いてほしかったんだ。でもそれは本質じゃない気もする。なんで驚いてほしかったのか。いや、喜んでほしかったのかな。思いのほか無反応だったから残念に思っているだけで。でも分かっていたはずだ。彼はあまり感情をあらわにしない。どうして私はそんなことを期待したんだろう?


「それは、言わなくても蓮二のデータで分かるでしょ?」


本当は自分でもよく分からないだけなんだけど、我ながら上手い返しだと思う。どうだ、と蓮二を再び見返したけど、彼はそうだな、と一言つぶやいただけだった。相変わらず表情はクールだ。


「ではなぜ、そのような反応を俺に期待したんだ」

「なぜ、って言われても……、それもわざわざ私に聞かなくても分かってるんじゃないの?」


ふむ、お前にしては上手い返事だな、と失礼なことを言って、蓮二は鞄からノートを取り出した。そしてこっちの反応なんておかまいなしに、何かをすごい勢いでメモし始めた。
私なんて眼中にもない。ただのデータ、データをとるための対象で、そりゃあ仲は良いけど、それも彼の好奇心を満たすための実験対象とぐらいにしか受け取られていないみたい。ぜんぜん可愛くない。腹が立つ。自分が馬鹿みたいじゃないか。ちょっとぐらい驚け!


「まあな、お前の行動はお見通しだ」

「蓮二」


ああ、腹立つ。どうしても驚かせたくて、優は思いっきり蓮二に飛びついた。どん、と衝撃がして体が触れる。突発的な行動だったはずなのに、彼はノートを既に片付けていて、抱きついた優を軽く受け止めた。


「と、言うとお前が腹立ち紛れに飛びついてくる確率72%」

「……分かってたの?ええ、抱きつかれたかったわけ」


あっけにとられて顔を上げた先では、蓮二が珍しくもくつくつと含み笑いをしていた。


(20110213)

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