10万Hit&バレンタイン企画 | ナノ
彼らのその後(おまけ、ギャグ調)
▼真田&柳生、その後
彼女と別れた後、タイミングを見計らったように後輩の佐々木くんが現れました。あの明るい佐々木くんが今はずいぶんとテンションが低く、げっそりしています。何があったのだろうと疑問に思っていたのですが、彼が告げた言葉に、私は慌てて委員会室へ向かいました。
委員会室に入ってまず目に飛び込んできたのは、椅子にすわって呆然としている真田くんでした。その目の前には、可愛らしくラッピングされた包み紙が置いてあります。彼はいつものりりしい表情ではなく、その瞳は焦点が合っていないようにも見えます。委員会室にいた他の委員たちは、そんな真田くんの様子を不気味そうに遠巻きに見ています。
「真田くん。…………。真田くん、大丈夫ですか」
「なっ、やっ、柳生かっ」
突然椅子をガタッと鳴らして立ち上がった真田くんは、勢いづきすぎて隣の本棚に頭をゴチンとぶつけてしまいました。しかしそのようなことも全く気にならないようで、ただ真田くんは動揺を隠しきれない様子です。これはもしかして、恋、でしょうか。……いえ、まだそこまでは行っていないようですね。
「貴方にバレンタインのお菓子を渡すなんて、とても剛胆な女性なんですね」
「あ、ああ」
「ちゃんとお返しをしなければいけませんよ」
「わ、分かっている」
あの真田くんが女性にプレゼントを渡すなんて、それだけでなんというサプライズなんでしょう。きっと彼の行動も、その女性の心に残ることでしょう。さて、私もお返しを考えなければなりませんね。ホワイトデーまであと一カ月、一カ月なんてとても短いものです。私は一体何をやったら、彼女の印象に残るでしょうか。これは、ミステリー小説を読むよりも面白い問題かもしれません。
▼柳、その後
「思っていたよりも俺はせっかちらしい。まさか速攻でこのような行動に出たくなるとはデータの予想外だ。自分でも驚いている」
「……」
「またデータを更新せねばならないな。人間の可能性にはつくづく驚かされる」
「えっとさ、さっきから何言ってるか分からな」
「だがこういった物事は早い者勝ちでもあるから、正しい判断とも言えるな。とりあえず、これだ」
目の前に小さな細長い袋が差し出される。蓮二は開けてみろ、と言う。いったい何なんだ。とっさに、昨日のバレンタインのお返しかと思ったけど、それならホワイトデーに渡されるはずだ。「お前のチョコは予想通り不味かった、このレシピを見て勉強しろ」とかじゃないだろうな、まさか。
丁寧に袋を開けて、逆さにして軽く振ると、手のひらにストラップがころんと落ちてきた。蓮二が付けていてもおかしくなさそうな大人っぽいデザインのそれは、もしかしなくても……、とてもペアストラップっぽく見える。
「お前の想像通りだ。気に入ったか?いや、気に入った確率89%。残りの11%である可能性もなくはないが」
「……あのさ、いきなりこれって、そういうことでいいの?」
「ああ」
「いやいや段取りおかしくない?普通はこう、告白して、お互いに気持ちの確認を」
「そんなことは不要だ。お互いにもう分かっているだろう」
「……まあ、そうなのかな」
蓮二はどこまでいっても蓮二だった。
▼丸井、その後
「ね、今度はビーフストロガノフとか極めようよ!」
「おっいいな。今度は一緒にロシア料理修行でもすっか」
あの日、バレンタインの日に二人――丸井先輩とその彼女の会話を聞いてからというもの、俺の目と耳にはしょっちゅうあの二人の会話が流れ込んでくるようになった。普通の会話なら別にいい。問題なのは、その内容がバレンタインのチョコよりも甘い甘い、見ているこっちが糖尿病にでもなるんじゃねえかと思えるほどの甘ったるい雰囲気を醸し出す会話だから、いたたまれない。主に俺が。
「ジャッカル先輩、あの二人、どーにかならないんスか」
「俺かよ。無茶言うな。あれは無理だ。見ろ、真田も諦めている」
「先輩のペアパートナーじゃないッスか」
「それはあんまり関係ねえだろ。っていうか赤也お前、もしかして最近ようやくあの二人の様子に気が付いたのか?」
「え?」
「もうだいぶ前からあんなんだったぜ。最初は真田が死にそうな顔してたけどな」
「……」
もうそろそろ俺、ダメかもしんない。
▼仁王、その後
「うー、ストーブってええのう。こういうときは文明に感謝なり」
「ストーブのあったかさって心地いいよね。眠くなってきた」
「……。ピヨーッ!?」
「うわっ、なんだどうした?」
「もらったチョコ、溶けてしもうた」
「ありゃー、ポケットに入れたまんまだったんだ。ストーブのそばだったからね。早く食べた方が良かったね」
「ロマンが消滅したなり……」
「あはは、大げさな!購買に売ってるじゃん、安いし。このお菓子好きなの?」
「そういう問題じゃなか!」
「んー、ごめん、男心は私には分からんようだよ」
「まったく酷い女じゃの」
「いやに突っかかるね、仁王……。まあ、そんなに好きならまたあげるよ」
「約束ぜよ」
▼桑原、その後
「落ち着けジャッカル、とりあえずどうしたソレ」
「ん?どうしたって何がだ?」
「何がって!なんでお弁当箱の中がチョコレートでぎっしりなのよ!」
お弁当箱の中身は、もらいものとおぼしきチョコレート「だけ」で構成されていた。チョコレートに見えるおかずというわけではないだろうし。
「なんでって、節約になるだろ」
「栄養のバランスが悪いでしょうがー!スポーツマンなんだから、体のことには気を付けなきゃだめじゃん。ほら、こっち食べて」
お総菜パンを差し出すと、ジャッカルは眉をハの字にした。こういう表情がよく似合う中学生男子ってどうよ、とツッコミたくなったがそれどころではない。
「それじゃあお前の分がなくなるだろ」
「私はダイエット中だからいいの!……なら代わりに、そのチョコ少しちょうだい」
「いいのか?」
「いいの!ほらチョコよこせ」
さんきゅ、と言ってジャッカルはパンを食べてくれた。その横でチョコを食べる私に、ジャッカルははっとしたような顔をして言った。
「……お前、ダイエット中って嘘だろ。チョコ食ってるし」
「あははー、いいのいいの。その代わり、太ったら責任とってよね」
「おう、任せろ」
あっさり言ってのけたジャッカルに、ちょっとときめいたのは気のせいか。
▼切原、その後
「あーかやっ。もう一回チョコ作ってみた!試食してー」
「おっ何お前、そんなに俺のこと好きなのか?」
「うん大好き!だから口開けて。はい、あーん」
「なっ……、そ、それなら仕方ねえな。あーん……ぶおっ」
「ねえねえ今どんな気持ち?どんな気持ち?」
「て、てめえ何だこれ!?」
「おほほほほ、新製品の酢昆布チョコですわご主人様!わかめなアナタにぴったりな一品でございます」
「こ、このやろーっ!!」
「つっかまえてごらんなさーい!バレンタインに私をないがしろにした罰じゃ!」
▼幸村、その後
幸村がうちのクラスにやってきた。どうも、俺たちのクラスにいる幸村の彼女に会いに来たらしい。何もせずとも女子が寄ってくるバレンタインの日にあいつから行動をするなんて珍しいな、と思って俺は幸村の様子をなんとなく観察していた。たぶん、他のヤツも同じ気持ちだったんだろう。男女とわず、なんとなく、幸村とその彼女がクラスの注目を集めることになった。
そしてあいつらが会話を始めた。ようするに「恋人同士の会話」をなんなく始めた。
クラス中が、死んだ。
何がすごいって、逆チョコでもバカップルっぽい会話の内容でもなく、普段ならばそこそこ人目を気にする幸村が全く教室の目を気にしなくなるくらい緊張していたってことだ。それほど好きなんだなと思えばほのぼのするのだが、やっぱり二人の会話を聞いていると、俺も死にそうになった。
(20110220)
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