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バッドトリップ! #9

斎藤さんは軽く頭を下げた。

「悪いね。どうしても気になることがあって」
「席、外しましょうか」

私は立ち上がろうとしたが、跡部に腕をしっかり握られて立ち上がれず、斎藤さんにも押し止められた。

「いや……君も聞いた方がいい気がするんだ。跡部君が構わないなら」
「俺はむしろお前にここにいてほしい」
「わかった」

私は再び跡部の横に腰を落ち着けたものの、そわそわしている斎藤さんを見ているうちに不安な気分になってきた。いくら優しい斎藤さんでも私たちの話など信用してくれまい。
しかし、彼の口から出た言葉はとても意外なものだった。

「跡部君に関しては、不自然なことが多いんだ。事件ではなさそうだから警察の上層部はあまり興味を示さないが」
「不自然?どういうことですか」

そりゃ跡部の存在は異質なのだから不自然極まりないのだが、斎藤さんはそもそも跡部が異質であるということを知らないはずだ。ただの記憶が混乱した少年だと思っているのだから。

「君、育ちがいいだろう?服も上質なものだし髪も痛んでいない。食事の所作も綺麗だ」
「俺の食事を眺めていたのはそういう理由か」
「すまないね、観察されるのはいい気分じゃないだろうけど確認したかった。あのね、子供が消えても捜索願いを出さない親はそんなに珍しくないんだ。子供にそもそも関心がなかったりね」

私は横目で跡部を見た。彼はいつの間にか険しい表情を消してじっと斎藤さんの言葉に耳を傾けていた。

「けれど、子供を大切に育てる人が、何日も失踪している我が子を探そうとしないのはかなり不自然だ。世間から隠している子供なのかと思ったけれど、筋のつき具合からして君は屋外でも活発に活動してそうだし」
「……俺は長らくテニスをしている。大会にも出た」
「うん、やっぱり。それに、世間から隠されていたにしては社交性がよく育っている。つまり普通に、ちゃんと育てられた子供であるはずだ。……にもかかわらず捜索願いは出されていない。これは跡部君の記憶とは関係なしに不自然だろう」
「なるほど、そうですね」

私は唸った。斎藤さんの言う通りだった。
戸籍が無いことについては、「跡部景吾は彼の本名ではなく、混乱した彼が本名だと思い込んでいるだけである」と考えれば説明がつく。だが保護者から捜索願いが出されていないことについては説明できない。
跡部はゆっくりと口を開いた。

「その通りだ。この不自然さを理解してもらえて嬉しいぜ」
「……君は単に記憶が混乱しているのだと思っていた。最初は。けれど今は、正直なところ、僕にも何が起きているのかよくわからなくなってきた」
「と、いいますと?」
「通学路に設置されている監視カメラのどこにも映っていないんだ。跡部君が。君たちが倒れていた場所に行くには監視カメラの前を通らなければならないのに」

ぞっとする。跡部の顔が白くなった。私も似たような顔をしているのだろう。
お互いを繋いだ手の温もりが、生命を感じさせてくれる。

2014/08/16 00:17
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