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バッドトリップ! #8

しばらく抱き締めていると、跡部は落ち着きを取り戻しポツポツと自分の身に起きたことを語り出した。

放課後、氷帝学園の人気のない廊下を歩いていたら突然意識を失ったこと。
気がついたら病院にいたこと。
誰も氷帝学園はおろか跡部財閥のことを知らず、医者に記憶障害があると思われたこと。
同じ日本であるはずなのに、有名な人物にも土地にも知らない名前が多いこと。
住所も戸籍もないこと。
家族から捜索願いも出されていないこと。

あまりにも唐突で不自然だったから、最初はドッキリかと思ったこと。

次第に、これが現実だと気がついて。
自分が誰なのかさえ自信が持てなくなっていたこと。

「……だが、お前が来た」

間近で青い瞳が私を映す。その眼にはもはや濃い絶望はなく、小さいけれども確かな光が宿っていた。

「お前は俺様を知っていた。間違っているのは俺たちじゃねえ。そうだろう?」
「うん。そうだよ。こんなの、おかしすぎる。誰もこんなおかしなことに気がつかないなんて」

私は思わずぎゅっと跡部の手を握った。跡部も強く握り返してくる。それが意外に思えて、私は思わずクスッと笑った。

「跡部もするんだね、こういうこと」
「アーン?どういう意味だ」
「好きでもない女と手は握らねえ、とか言いそうだと思ってたのに」
「……俺をなんだと思っていやがる。友人は別だ」
「そっか。ありがと」

少し嬉しくなって笑うと、跡部はようやく跡部らしい自信に溢れた笑顔を見せた。
ようやくホッとした私は、腹を決めて跡部に尋ねた。

「これからどうしよう?」
「どうにかして、歪みの理由を知りたいところだが……生憎、今の俺には何のツテもねえ」
「そうだよね。うーん、テニプリの作者さんなら何か分かったりするのかな」

その時、病室がノックされた。応える間もなく斎藤さんが真剣な表情で入室してくる。
跡部は険しい表情をして斎藤さんを睨み付けた。

「盗み聞きしてやがったな」

斎藤さんはバツが悪そうな顔になった。しかし険しい表情の跡部から目をそらそうともせず、スツールに腰掛けると静かに話始めた。

2014/08/15 23:51
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