ネタ | ナノ

バッドトリップ! #5

彼はどうやら漫画の登場人物を自分だと思い込んでいるらしい。確かに彼は跡部景吾にソックリだが、それにしても混乱が激しい。

「跡部は漫画のキャラクターだよ、あなたは跡部のコスプレイヤーか何かだったんだよきっと」
「……何」

彼は何かを言いかけたが口をつぐんだ。考え込むような仕草をして、それからハッとする。顔は青いを通り越して白に近い色になっていた。

「……聞きたいことがある」
「どうぞ、私に答えられるなら」
「おまえは、『氷帝』の『跡部景吾』が漫画のキャラクターだと言ったな」
「うん」
「有名な漫画なのか」
「かなりね。人気があるし連載期間も長いんだよ」
「それなら、ネットで検索すればすぐに出てくるな?」
「もちろん」

彼は押し黙った。再び私を見た彼はさらに混乱した様子だった。

「跡部景吾と調べても何も出てこない、と刑事が言っていた」
「は?」
「ネットでも出てこなければ、戸籍にもそんなやつは載っていないと」
「……え、え、え、ちょっと待って!」

私は思わず叫んだ。彼は、なんて言った?

「ネットで出てこない?」
「ああ」
「嘘!だって一番人気のキャラだよ!?ファンサイトも一杯あるって聞いたし」
「……」
「刑事さん違う言葉で検索しちゃったんだよきっと」
「俺は、跡部景吾とはっきり伝えた。漢字も示した」

私は半笑いになった。刑事さんは相当パソコン音痴らしい。
私は肩からかけていた鞄を探った。スマホ、スマホ……ない。

「げ、スマホ忘れた」

検索結果を見せれば彼も納得するだろうと思ったのに、どうやら家に置いてきたらしい。

「おい」
「ちょっと待ってて!すぐ戻ってくるから!」

病室から飛び出した私は廊下を早足でつっきった。病院のそばに大きな古本屋があったはずだ。そこでテニプリを買って彼にプレゼントしよう、と私は心に決めた。出会ったのは何かの縁だ。彼はコスプレをするくらいだから氷帝が好きなのだろう。氷帝が戦うシーンを見れば、何か思い出すかもしれなかった。

2014/08/09 00:29
[back]
[top]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -