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バッドトリップ! #4

日本人離れした青灰色の瞳に闇がのぞく。私はその暗さに衝撃を受けた。思っていたよりもずっと悪い状態じゃん、これ。

「あの」
「……お前、何か見てないのか」
「ぶつかった時に?ごめん、何もわからない。気がついたら道で気絶してて」

彼は絶望的な表情で私をしばらく見つめ、それから手で顔を覆って再び項垂れた。私にできることなんて、本当にあるのだろうか。
彼はうつむいたまま全く動かない。
居心地が悪くなった私は病室をきょろきょろと見回した。殺風景な白。荷物は何も置いていなかった。壁のフックには白いブレザーとチェックのズボン、それからカーディガンが掛かっている。この服にも見覚えがあった。あの日、彼が着ていたものだ。

「あ、これ……」

ブレザーの胸に見たことのあるマークが付いていた。
彼は私の言葉にすばやく顔をあげた。

「お前、知ってるのか!?」
「知ってるも何も……氷帝のマークでしょ?」
「氷帝を知っているのか!?」

テニスの王子様は読んだことがあった。最近の話はあまり読んでいないが、何冊かはうちに漫画があったはずだ。彼の着ていた服は氷帝の制服にそっくりだった。

彼は立ち上がると鬼気迫る表情で詰め寄ってくる。その様子に私はたじたじとなって壁に追いやられた。

「う、うん。あなた、コスプレイヤーだったの?」
「はあ?」
「え?」

彼は意味がわからないという風に顔を歪めた。何かおかしなことを言っただろうか。自分の趣味も覚えていないのだろうか。
しばし見つめ合う。
私は恐る恐る口を開いた。

「よく考えたら部長さんにそっくりだし。コスプレしてたんじゃないの?」
「……」
「えーと、ほら、氷帝の部長の、跡部景吾」

彼の目が大きく開かれた。見る間に青ざめてゆく。
彼は、掠れた声で呟いた。

「跡部景吾は、俺だ」

今度は私が目を見開く番だった。

2014/08/07 23:00
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