ネタ | ナノ

バッドトリップ! #3

電話で指示されたとおりに総合病院へ行くと、広い玄関の前で見たことのある若い男性が待っていた。担当刑事の斎藤さんだ。
彼はこちらを見るとほっとしたような顔で手招きをした。

「悪いね、わざわざ来てもらって」
「いいえ、暇ですから!あの、彼はどういう状況なのですか?」

後ろをついて歩きながら尋ねると、斎藤さんは少し躊躇って慎重に口を開いた。
土曜日の病院は混雑していたが、斎藤さんに従って移動するにつれすれ違う人は少なくなっていく。彼は端の病棟にいるらしい。

「体調は問題ない。健康そのものだよ。ただ、記憶が未だに……かなり混乱していてね」

斎藤さんはいやに歯切れが悪い。

「混乱?」
「うん。彼は、君と会うことが記憶を正すヒントになるんじゃないかと考えているみたいなんだ」
「私で大丈夫なんでしょうか?刑事さんに話した以上のことは知りませんし」
「いや、君の顔を見たら何か思い出すかもしれないからさ」
「あっ、そうですね。……彼のお父さんお母さんも心配でしょうね」

斎藤さんはなぜか、ぐっと言葉に詰まった。

「プライバシーの問題があるから僕の口からはあまり話せないんだ、ごめんね」
「? そうですか……」
「さあ、ここだ。僕は部屋の外で待機しているから、何かあったら声を掛けてくれ」

斎藤さんはある部屋の前で立ち止まってノックすると、静かにドアを開けた。

背中を押されて一歩病室に足を踏み入れた私が見たものは――――ベッドの縁に座って頭を垂れ、うなだれる彼だった。




彼が顔を上げる。

目が合う。

その目に宿る、濃い絶望。

私は言葉を失った。

背中で病室の扉が静かに閉まった。

2014/08/06 23:53
[back]
[top]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -