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我は幸村、裁判官なり。1

━━傍聴席は人でいっぱいだ。今日は世間を騒がせた詐欺事件の判決が出る日なのだ。時間きっかりに眉目秀麗な裁判長が黒衣をひるがえして入廷してきた。法廷に緊張が走る。幸村精市。神の子とも呼ばれる由縁はその美しさだけにあらず──いや、むしろその『性格』にある。彼はあろうことか、実にうんざりした顔で口を開いた。

「判決。……あーめんどくさい。だらだら話すのは性にあわないな。判決言い渡しの形式なんて守らなくていいよね、大切なのは合理性だ」

━━さきほどまで自信満々な様子で控えていた検事・真田は幸村の様子に一瞬ぽかんとし、それから愕然として叫んだ。

「なっ、幸村!どういうつもりだ」
「どうもこうもない」
「いくらお前でもそんなことは許されないぞ。きちんと裁判官らしく」
「うるさい。俺に逆らうなら死刑にするよ」
「なっ」

━━真田は幸村の言葉に顔色を赤くしたり青くしたりする。幸村ならやりかねない。いや、確実に、やる。硬直する真田であったが、真田の隣にいた者は真田よりも狼狽し、幸村の無茶苦茶さえ耳に入らぬ様子で真っ白になっていた。詐欺事件の容疑者、丸井である。

「(絶望的だぜぃ、俺何もやってないのに……)」

━━事実、丸井は何もしていない。気がついたときには逮捕されていた。テニスラケットとボールを構えた鬼の真田に尋問を受け気がつけば裁判ももう終局間近。検察官とは恐ろしい。しかし丸井が何よりも恐れているのは鬼の真田ではなく『神の子』であった。噂によればどんな事件でも必ず有罪にし100%死刑にする、とか。誰にも口を挟まれず自由に振る舞う彼はまさに『神判を下す神』なのだ。
━━一方、傍聴席の最前列に陣取っていたワカメ頭の若い記者は目を白黒させて隣の男に囁いた。

「ち、ちょっと仁王先輩!幸村サイバンチョーむちゃくちゃっすよ!あれいいんすか」
「顔が青いぜよ、赤也。ま、幸村だしな。神の子の言うことは絶対じゃ。確実に相手を100%死刑にする」
「ひ、ひゃくぱーせんと……?」
「言ったじゃろ。あの絶対的な幸村だ、犯罪は許さん」

━━仁王はどこかすまなそうに言う。青い顔でボールペンをにぎりしめた切原は幸村を凝視した。まるい、せんぱい。
━━幸村は周りの様子など気にもとめず、ニコニコしながら言葉を続ける。

「さて、丸井。君は無罪だ」

━━法廷がどよめいた。まさかの無罪判決。あの神の子、が。判決に絶句した真田とは打ってかわって、うつむいていた丸井は勢いよく顔を上げてる。丸井の隣に控えていた弁護士・柳生はほっとした表情を見せた。

「幸村くん、さすが、天才的だぜぃ!分かってくれたんだな!」
「ふふ、もちろん。俺を誰だと思っているんだ」
「神の子……」

━━呆然としている真田の小さな呟きに、幸村は我が意を得たりと微笑んだ。

「その通り。俺は神の子。全てを見通して正しい判断を下す。被告人・丸井は詐欺を犯していない」
「幸村くん……」

━━丸井は安堵と感謝に目を潤ませる。が、続く幸村の台詞に凍りついた。

「さて。じゃあ処罰は五感を奪うくらいでいいかな。さすがに処刑はかわいそうだし」
「……は?」
「なんだ、丸井」
「処罰ってなんだよ?俺無罪放免なんだろ!?」
「うん、詐欺についてはね。でも、よく考えろよ」

━━さきほどと同じように微笑む幸村。だが傍聴席の切原にでさえ幸村の周囲の温度が下がったのを肌で感じとる。

「お前が犯人に間違われるようなことをしていたせいで俺が無駄に裁判をするはめになったんだ。だから処罰されるべきだ」
「なっ、ちょっ、待っ……ギャーッ!!」

━━言い終わるや否や、幸村はどこからか取り出したテニスラケットを勢いよく振りかぶり、黄色い何かが続けざまに丸井に放たれ…………轟音とともに丸井は椅子ごと倒れて動かなくなった。法廷が、凍りつく。真田のあごから汗がひとしずく、したたった。

「まあ、一番悪いのは真田だな。無罪の者を捕まえるなんて死に値する」
「ゆっ、幸――!」

━━幸村は机の上から分厚い本を持ち上げた。

「ピヨ、『六法全書』?だが……鉄製見たいに見えるな」
「幸村サイバンチョー、一体何を」

━━切原が一文を言葉にし終える前に、幸村は鉄製六法を片手で持ち上げぶん投げた。鈍い音がして、六法を顔面に受けた真田はひっくり返って動かなくなった。切原は体の芯が冷えるのを感じた。100%有罪。100%処刑。その意味を、ようやく理解したのである。

「さて、裁判は終わったし処刑もすんだし。裁判はこれにて終了。後片付けは頼んだよ、ジャッカル」
「お、おう……」

━━警備員のジャッカルは青ざめた顔で頷いた。

「苦労かける」

━━裁判官・幸村は、凍りついたままの法廷に爽やかな笑顔を残して去っていった。

2013/04/12 01:15
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