すき、という気持ちは所謂大きな箱なのだと思う。即ちそのなかにどんなものを詰め込んでいるかで意味合いが変わってくるもので。「すき」という簡単な言葉はされど難しい。誰彼どんな相手にも正しく好意を伝えるための手段だというのに、そのなかに詰め込む感情の選択がこれまた難しい。更にいえば中身を含めてきちんと誤解ない手段で相手に自分の「すき」を差し出すのも難しい。どれだけどうすればと頭を悩ませてまで伝える価値があるのかと問えば、自分は勿論あると答える側の人間で。きっとマジョリティ寄りだとは思うのだが、そもそもそこまで考えて「すき」という台詞一つ使っているのかどうかと言われれば世の中そうではないのかもしれない。








…と、そこまで思考が進んだ段階で両肩にかかる重みが増したのを感じた。


「先程からぼーっとしていますが話を聞いていますか?」
「俺たちは真剣な話をしているんですアリババさん」
「…ああ、うん、聞いてる」


ちゃんと聞いてるから。とりあえず手の力をゆるめて下さい。
ミシミシという音まで聞こえそうな自分の肩は大丈夫なのだろうか。骨が粉砕されそうだ。そう思ってしまうほどの痛みと軋みをきかせてくる。左右片方ずつ別の人間に掴まれながら、アリババは遠い目をする他なかった。












昼食後に突然白龍とモルジアナがやって来て、アリババは人気の無い場所まで引っ張られた。そうして何だ何だと目を白黒している間に壁際まで追い詰められて。どこか怖い雰囲気の二人に詰め寄られ、且つ肩をこれでもかと掴まれたアリババはもはや涙目になるしかなかった。特に白龍はまだしも、ファナリスであるモルジアナの力は言うまでもなく強く、アリババが思わず「あ、殺される」と考えてしまうのも無理からぬことで。そうしてひたすら怯えるアリババに向けて二人は口を開いた。…その内容は結論から言ってしまえば世間でいう愛の告白とやらで。実に現状の雰囲気に似つかわしくないなぁと思いながら、アリババは冒頭の思考の海にダイブすることとなる。


「アリババ殿は俺たちのことをどう思っていますか」
「どう、って…」
「好きですか嫌いですか」
「いやその二択なら好きに決まってるだろ…っていうかちょっと一旦落ち着」
「ける訳ないでしょう。確かに好きか嫌いかの二択はあまり適切ではありませんでしたね。では恋愛感情という意味合いではどうですか。俺と白龍さんにそういう感情はありますか」
「いやいやいや恋愛感情って…」
「言っておきますが俺もモルジアナ殿も真剣です。つまらない言い訳や建前はやめて下さいよ」


お前らが真剣なのは痛い位に分かってるっていうか実際に現在進行形で痛いけどな!?
真っ直ぐな対の瞳が二人分…目を逸らすことも出来ずにどうすべきかとアリババは困り果てる。急も急な話だ。…恋愛感情云々という質問に関しては考えられないというより考えたことがないというのが本音で。二人のことは好きだがそういう意味の好きではなく、友情的方向のものしか自分は有していない。…それを伝えるべきだろうと思いつつ、やけにギラギラとした真剣な表情に腰が引けていて。あああどうしようと考え込んでいると、小さな話し声が聞こえてきた。


「…埒があきそうもないですねモルジアナ殿」
「そうですね白龍さん」
「あまりこういう方法は良くないとは思いますが」
「それも仕方ないでしょう」


ひそひそと目の前で交わされる二人のやり取りにクエスチョンマークを飛ばしていると、再びギラリとした二人の表情がアリババに向けられた。驚きにビクリと肩を跳ねさせたアリババに二人はぐいぐいと更に迫っていく。


「え、え、?なに、え、」
「現時点で貴方に答えを求めてもきっと色好い返事は期待出来ないでしょう」
「……あー…いや、まあ、」
「ですがこちらもそうですかと簡単に頷くことは出来ません」
「なのでアプローチの方法を少し変えさせて頂きます」
「…うん?」
「とりあえず恋愛感情は後々よろしくお願いします」
「アリババさんが押しに弱い方で良かったです」
「ちょ、え、なに言って」


肩にあった筈の手はいつの間にか手首に移動していた。拘束された両手と不穏な空気にアリババは冷や汗が止まらなくなっていた。


「お前ら何か変なこと考えてるだろ!?」


もしそうなら考え直せ!落ち着け!ほんとに!!
わーわーと騒ぐアリババを視界に捉えながら、二人は同時に口を開いてこう言った。














(ああ全く勘弁してくれ)




***


落葉様、この度は150000打企画にご参加下さり誠にありがとうございました!

「往生際が悪いですよ」というタイトルで書かせて頂いたのですが…いかがでしょうか?とても違う方向性に行ってしまった気がします。初めてモルちゃん♂書いたんですけど(そもそもモルちゃん自体初めてだったんですけど)、とても楽しかったです。素敵なタイトルリクエストありがとうございました!そしてすみません!(土下座)

それでは本当にありがとうございました!!


(針山うみこ)