優しい優しい世界で、
美しい美しい世界で、

ただただそんな世界で、


みんなみんな、

生きて…いけるならば、












「アリババくんの理想は正に理想といった形ですね」


ぽつりとジャーファルが零した言葉はアリババの耳によく届いた。
アリババはそんな言葉の意味をするりとよくも簡単に吸収して、小さく呼吸をする。


「ジャーファルさんの理想ってなんですか?」

「私の理想…ですか?」


はい、と頷くアリババの髪をゆるりと撫で、ジャーファルは小さく笑みを浮かべた。


「私は…ただただ自身の身一つ、囲う世界の狭囲一つで精一杯ですからねぇ」


遠くを眺めるような猫の眼を晒しながら、ジャーファルは息を漏らした。
アリババはじぃっとそんなジャーファルの横顔を見つめ、隣に座るその人の肩にぽすんと頭を寄せた。


「ジャーファルさんみたいな…そういう人がいるから、俺は理想を語れるんですよ」


理想を、語りたくなるんです。

陽光をきらきらと反射するアリババの髪がサラリとジャーファルの肩を流れる。


「…なんて、」


たまには恥ずかしいことを言ってみたり、

まるで幼いいたずらっ子のように顔をくしゃっと笑みにして、アリババはジャーファルの手に自身の手を重ねた。温度の違いに何だかとても、とても、


「アリババくんは結構常日頃から恥ずかしいことを言ってると思いますけどね」

「えっ、そうですか?」

「そうですよ」


私には言えない
眩しい世界で映える言の葉

君が君が君であるから、
真剣に
愛しく
笑って
泣きそうに
叫んでは
尊ぶように

君が君のまま、
世界を
命を
優しく
強く
真っ直ぐに

だから、だからこそ、



「君を好きだなぁって…」


思えて、思える、

想える私を、私は誇らしく思える



「…言ってジャーファルさんだって随分恥ずかしいこと言ってますけど」


ふふっと笑うジャーファルにほんのり赤くなった顔でアリババは言う。
ジャーファルは自覚ある言葉で本音なのだから構わないと返す。



「…そうですか」

「そうですよ」

「…俺もジャーファルさんのこと好きですよ」

「知っていますよ…ありがとうございます」

「どういたしまして」



ふはっとふき出したのはどちらが早かったのか。
ジャーファルもアリババも肩を揺らし声をあげ、陽光の下二人きり。



「はぁ…そろそろ戻りましょうか」

「ですね。…そういえばジャーファルさん仕事は良いんですか?」

「たまには休んだって罰はあたらないでしょう」

「優秀な政務官が聞いて呆れますね」


重ねた手を繋ぎ直して立ち上がる。
揺られ薫る草木の中、足を踏み出し歩き出す。











たぶんね、
世界がどうとか、
平和がどうとか、
そんなんじゃなくて



そんなんじゃなくて

ね、











(きみのとなりでいきができればそれだけで)





***


月影帝兎様、この度は50000打企画にご参加下さり誠にありがとうございました!

針山の願望を詰め込んだお話…との事でしたが、ご希望に果たしてこれで応えられているのかどうなのか…こ、こんなので申し訳ないです。

針山のただ幸せに、ただ同じ場所で同じように笑える同じ立ち位置のジャファアリ…という…そんな願望を詰め込ませて頂きました!

そして消化が遅くて本当に本当に申し訳ないですすみません。すみません。苦情はいつでもどうぞ!(土下座)

それでは本当にありがとうございました!!


(針山うみこ)