俺は担任に恋をしている。











「アリババ・サルージャ、今は私ではなく黒板を見ていなさい」


冷たく言い放たれた言葉に思わず身体が傾いだ。それと同時にタイミングが良いのか悪いのか、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。銀灰色をしたその人は教材を片手に静かに教室から出て行ってしまった。


「うあ…またやっちまった」
「アリババ殿…あなたはどれだけ注意されれば気が済むのですか」


机上に上半身を落ち着けうなだれていると、右隣に座る友人…白龍に溜め息を吐かれた。そんな呆れたような顔で見るなと言いたい。


「んなこと言ったって…どうしても目で追っちまうわけで」
「そんなに好きなんですか」
「好きだよ」
「…即答とは重症ですね」


付き合ってられないとばかりに首を振る白龍だが、何だかんだと相談に乗ってくれる良い友人だ。優しい奴だって知ってるからこそ、本来秘めるべきであろう俺のこの想いも白龍には包み隠さず話した。…担任である男性教師に一目惚れしたのだと。

一目惚れだなんて一種現実味の無い話のように感じられる。かく言う俺もあの人を目にするまではそうだった。…けれどもう知ってしまったのだ。あの鮮烈までな感覚を。忘れようの無い衝動を。


「あそこまで冷えた対応をされてよく平気でいられますね」
「平気、ではねぇけど…先生に関われるならもう何でもいい。何でも幸せ」
「…もはや変態の域ですね」
「酷い言いようだなお前」


おい、と軽く睨んでみても白い目で返された。初めこそ真剣に相談に乗ってくれた白龍だが、いつ頃からか段々俺への態度が容赦なくなってきた。在る意味気の置けない仲だと言えるのかもしれないが、その代わり優しい友情とやらはどこかへ飛んで行ってしまったらしい。


「あ、そうだ白龍一個相談」
「なんですか?」
「さっき先生俺に、先生じゃなくて黒板見ろって言っただろ?」
「言いましたね」


それがどうかしたんですかと首を捻る白龍に俺は口を開いた。


「今はってことはもうさっきの時間は終わったし、もう見ても良いってことだよな?」
「…気持ち悪いですアリババ殿」


何なんですかそれ。恐ろしいほどのポジティブシンキングですね。そもそもそんなこと相談しないで下さい。

なんてまた酷い言われようだ。少しへこみつつも、次の六限が終われば帰りのホームルームだ。朝と帰りのホームルームは必ず先生の姿を見ることが出来る。本当に先生が担任で良かった。そんな風に意識を飛ばしていると、白龍に教科書で軽く頭を叩かれた。「変な顔をしないで下さい」と妙に真面目に言われたので、よほど見るに耐えない顔をしていたらしい。

軽く両手で頬を揉み込み筋肉を解す。あまり表情を隠すのが得意では無いため気をつけなければ。ポーカーフェイスはどうすれば身に付くものなのだろうか。…ポーカーフェイスといえば先生も全く表情を変えない。あれはポーカーフェイスというより無表情と言った方が適切だろう。それ位先生の表情筋は動かない。


(…いつか笑った顔が見たいなぁ)


それはきっと途方もない願いなのだろうけれど。想うばかりは自由だろう。









(……好きです、ジャーファル先生)





帰りのホームルーム中に身の内で愛の告白をしていたら隣の白龍に足を踏まれました。痛かったので踏み返してやりました。




すきすきだいすき
だいすきせんせい