*何だか色々あってシンドリアに身を寄せつつシンドバッドさんに忠誠心と命を捧ぐアリババくん設定
*煌帝国とシンドリアはほぼ冷戦状態だったけど、マギであるジュダルが引っ掻き回し始めた所為で徐々に雲行きが怪しくなってきた現状…という辺りです







暗く湿った路地裏。不気味な程に静まり返ったその場には、ジュダルにとって招かれざる客が無言で佇んでいた。眩いばかりの金糸を揺らしつつも、表情の失われたその姿に美しい金糸に似合うだけの明るさなど微塵もない。
「お前…確かバカ殿んとこの」
ジュダルは沈んだ記憶から目の前の人物を引っ張り上げた。度々訪れるシンドリアの地でシンドバッドの傍らに在った者だと頷く。
「で?俺にナニか用かよ?」
面白そうに口の端を上げるジュダルに対しピクリとも表情を変えない少年…アリババは、その懐から鈍い光を放つ剣を取り出した。それを見て更に笑みを深めたジュダルにアリババはゆっくりと唇を開く。
「煌帝国マギ、ジュダル…悪いけどここで死んでくれ」
「ハッ、ただの人間が吠えるじゃねーか。良いぜ、来いよ」


(そんで適当に戦闘シーンが入って、その最中に紅覇ちゃんが来ます)


ガキィッと刃物が擦り合う音が響く。アリババは受け止められた自身の剣に小さく舌打ちしつつ、素早くその身を後方に引いた。
「、練…紅覇か」
「ちょっとぉ〜ウチのジュダルくんイジメないでくれるー?」
その小柄な身体には似つかわしくない大振りの剣を携えた練紅覇。口角を上げて笑いつつも決してアリババへの警戒は解かない。
「おい紅覇!邪魔すんじゃねーよ!!」
口の端から血を流しつつ、瞳にギラギラと闘争心を煮詰めるジュダルが非難の声を上げる…が、紅覇は落ち着いた声音で自身の目的を話し出す。
「だぁめ。炎兄が呼んでるから早く行ってあげてよ。そこにいるヤツは僕が片付けておくからさぁ〜」
紅炎の名が発せられた瞬間、ジュダルはピタリと動きを止め閉口した。不満げな顔は隠さず、けれど諦めたように息を吐き出した。
「…チッ、分かったよ。だけどソイツは俺の獲物だ」
暗に手を出すなと言うジュダルに紅覇は面白くなさそうに唇を尖らせた。しかし有無を言わせぬジュダルの空気に渋々ながら頷く。
「おい、お前名前は?」
不意にジュダルがくるりと方向を転換し、そんな問いをアリババに投げかけた。
「………」
だがアリババは無言のまま答えようとしない。無視される形を受けたジュダルは当然眉間に険を刻み、再びピリピリとした雰囲気が広がり出す。ジュダルが怒りのままにその口を開こうとした瞬間、ようやくアリババから情の篭もらぬ平坦な声が落とされた。
「…シンドバッド王の敵であるお前に俺の名を教えるつもりはない」
淡々と、しかし堅固な意思は揺るぎを知らず。僅かに息をのんだ紅覇は恐る恐る隣に目を向けた…すると、
「…っく、ハッ」
そこには大変愉快だといわんばかりに喉を体を震わせる自国のマギがいた。
「ふ、ははっ!何だよソレ、お前本当にシンドバッドの犬なんだな!」
よくもここまで従順に躾たものだと笑うジュダルは、ややしてにんまりと笑みを形作った。
「いいな、お前。次会う時までにそのケガ治しとけよ」
指された先にあるアリババの腹はドス黒く染まり、一目で重傷だと分かる。当の本人は涼しい顔で立っているが、よく見れば両足は小さく震え呼吸も上がっている。
「…殺さないのか」
「面白くねーだろそれじゃあ。…安心しろよ、次はちゃんとその息の根止めてやるからよぉ」
それまでは精々バカ殿の下で大人しくしてな。俺以外のやつにお前を殺る楽しみを奪われるなんて冗談じゃねーし。
「…後悔するぞ」
「ハッ、させてみろよ」
そういう心積もりでいるんなら願ったり叶ったりだ。次はもっと楽しませろ。全力で来い。
そう宣うジュダルを理解出来ないとでもいうように眉を顰めて睨むアリババ。しかしジュダルはそんなアリババの反応ですら楽しんでいる節がある。静かな攻防を行う二人に詰めていた息をゆっくり吐き出した紅覇は、そっとジュダルの腕を引っ張り意識を向けさせた。
「満足した?じゃあいい加減炎兄のトコ行こう」
「…あーそうだな、忘れてた」
ジュダルは面倒くさそうに頭を掻き、そうして一度アリババと視線を合わせてから歩き出した。
アリババも痛む腹を感じつつ、早く帰らなければと彼らに背を向ける。
ジュダルとアリババ…何でもない路地裏で、初めて二人は言葉を交わしたのであった。


(アリババくんシンドリアに帰宅)


「ッ、アリババくん!?」
「ジャーファルさん」
衣服を翻しながら大慌てでこちらへ向かってくる人物にアリババは苦笑する。
「その怪我は…」
「えっと、ちょっと色々あって。それよりあの、シンドバッドさんは?」
ちらちらと具合が悪そうに窺ってくるアリババにジャーファルはため息を吐いた。
「シンは自室ですよ。今なら会いに行っても大丈夫です…ただしその前に手当てをさせて下さい」
シンドバッドの居場所に反応してすぐにでもそちらへ向かいそうなアリババを宥めつつ、ジャーファルは逃げられないようにとアリババの手をしっかりと掴んだ。アリババはアリババで渋々ながらも歩き出したジャーファルの後ろを大人しくついて行く。よく考えればこんな血まみれでぼろぼろな状態を晒すなんて失礼だ。自身の短慮さにこっそり落ち込みつつ、アリババはジャーファルの背中を追った。


(手当て後にシンドバッドさんの所へ行き、しばらく会話するアリババくん)


悲し気に髪を梳いてくるシンドバッドにアリババは唇を開く。
「シンドバッドさんは勘違いしています」
身を包む温もりに目を閉じながら、アリババは僅かに笑みを浮かべた。
「確かに恩義は感じていますし、行動に少しもソレが含まれていないとは言いません」
(でも何より)
「何より…俺が貴方の役に立ちたいだけなんです」
身を心を削っては注いでくれる貴方だから。だからこそ俺は貴方の傍らに在りたい。
「あの日にアリババ・サルージャという人間は死んだんですよ」
(今は)
「今はもう、シンドバッドさんに…シンドバッド王に仕える駒の一つに過ぎません」
だから俺なんかのことでそんな顔しないで下さい。我が王。
シンドバッドの肩に顔を埋め、震えるような声でアリババはそう告げた。
「アリ、」
「それじゃあそろそろ自室に戻りますね!お邪魔しました」
シンドバッドの言を遮りパッと顔を上げたアリババは、そのまま流れるように部屋を後にした。シンドバッドから紡がれようとした言葉、それを聞くのがなぜか恐くなったのだ。
風のように去っていったアリババに伸ばしかけた手は宙を舞い、ややしてギュッと握り固められる。シンドバッドが目を伏せて息を吐いていると、一度閉じられた扉が再び音も無く開いた。
「シン」
「…ジャーファル」
扉の陰から現れた人物に知らず強張っていた肩の力が抜ける。しかしどこか責めるようなその表情を目にし、シンドバッドはズクリと胸の内が痛むのを感じた。
「シン、あなたはアリババくんをどうするおつもりなんですか」 
「さあ、な…俺は一体どうしたいんだろうな」

『シンドバッドさん!』

あの日確かに感じた温もり。縋るように、けれど気高さは失わない瞳に俺は確かに魅入られて。
もし叶うならばずっとこんな時が続けば良い。らしくないとは思うがそう願わずにはいられないのだ。
「俺は酷い男だな」
「そうですね、あなたはズルくて最低です」
「ハッキリ言ってくれる」
苦しそうに双眼を揺らすシンドバッドにジャーファルは言葉を続けた。
「それでも今を壊したくないと思う気持ちはあなたと同じですよ」
私も所詮はあの子を騙し欺き続ける最低な輩だ。
そんな風に己を嘲り笑うジャーファルを黙って見つめるシンドバッドもまた、苦く歪む表情を隠せないでいた。


(なんか色々あってジュダルちゃんにちょっかい出されたり戦ったり真実を知って絶望したりを含んでラスト(もはや投げやりとかそんなことはない))


「なあ、運命を呪えよアリババ」
そうすれば。
そうするなら。

「俺がお前を王にしてやる」

差し出されたその手を拒む理由など。
(ああだって俺の王さまは…もう)

『アリババくん』

(いな、い)
ぼろりと落ちた涙に感情は全て攫われて。小さく呟いた王の名は、誰にも届かず消えていく。
ふ、と目の前にある手を見つめる。黒き創世の魔法使い…マギ。
にんまりと笑う男はただそこに居て。
もう選択肢など存在していない。いや、そもそも初めからそんなものなど無かったのだ。
アリババはゆっくりと己の手を持ち上げ、そうして静かに相手のソレに重ねた。


「契約成立だ」


遠くにそんなジュダルの声を聞きつつ、アリババは静寂の中その瞳を閉じた。






***



はい!お終いです!
何か色々設定は楽しく考えていたんですけど長くなりそうだったのでやめときます。ここからは幾つかネタバレというか設定についてのお話です。

まず何故アリババくんがシンドリアに身を寄せてシンドバッドさんの配下的な立場にあるのかというと、アリババくんの自国バルバッドが戦によって滅んだというか半ば無理矢理解体された状態になったんですね。戦については煌帝国相手に色々な要因が重なってバルバッドから仕掛けた形になります。これ幸いと煌帝国がそのままグシャーッとバルバッドやっちゃうんですけど。…そうして戦の後落ち着く前のぼろぼろになったバルバッドをシンドバッドさんがジャーファルさんと共に歩いていて、そこでまだ幼いアリババくんと出会います。シンドバッドさんはすぐに第三王子のアリババ・サルージャだと気付いてさてどうするべきかと考えます。
ここで少し違う話になるんですが、最後の説明で真実を知って〜とか書いてたんですが、実はバルバッドが起こした煌帝国との戦で最後にバルバッド解体にシンドバッドさん協力してるんですね。シンドバッドさんとしては苦渋の決断で「けれどこのままではどちらにしてもこの国は終わる」と判断を下して、それならばいっそこれ以上バルバッド先王が守ってきた国民を死なせる前に終わらせようと。まあそんな過去があって。そうして現王としてあったアリババくんのお兄さん達は国外に永久追放という。
そうして話は戻って今まで見つからなかった第三王子のアリババくんと遭遇したシンドバッドさんはどうしようってなるんですね。実はアリババくんの存在は隠匿とされていて先王との繋がりで偶然知っていたシンドバッドさんだけが王子さまだって気付いて。処遇を考えている時に、アリババくんは自らシンドバッドさんに近付いていきます。そうしてじいっと見るんですシンドバッドさんのこと。幼い顔にある大きなまん丸い瞳に見つめられている内に、この子をシンドリアに連れて帰ろうと決心します。…これだけだとシンドバッドさんただの誘拐犯(笑)
それからはまあシンドバッドさんとジャーファルさんに甘やかされながら剣術の腕を磨いたり勉学に勤しんだりする訳ですね。幼少からの刷り込みじゃないですけど、目一杯それはもう可愛がってくれるシンドリアの人たちのためにって自国を思いながらもアリババくんはシンドリアを第二の故郷として守っていこうと決意します。その端で自国を滅ぼした煌帝国を複雑に思いつつ。

そうして月日は流れて冒頭へと戻ります。今度はシンドリアと煌帝国の関係が怪しくなってきて、その原因はまあジュダルちゃんですね。それを聞いてアリババくんはシンドバッドさんの悩みのタネとなっているジュダルちゃん抹殺を企てます。アリババくんは盲目的とまではいいませんが、シンドバッドさんのためならば〜という意識でいるので何でも頑張っちゃいます。例え勝算が無い相手でも。
それからはまあジュダルちゃんに不覚にも気に入られちゃったアリババくんは、シンドリアにふらっと度々やってくるジュダルちゃんに振り回されます。アリババくんがいない時にシンドバッドさんにアリババくんのことを聞いたジュダルちゃんはその時ようやくアリババくんの名前を知れてご満悦です。逆にシンドバッドさんはバルバッドでの真実を知るジュダルちゃんに冷や汗ものですね。アリババくんに伝えていないソレがもし彼の耳に入ったらと思うと…という心境です。アリババくんが自国をとても愛していたと知るシンドバッドさんは真実を伝えることをずっと躊躇ってきたので、ここへきてその問題が浮上してきて気が気ではありません。なるべくジュダルちゃんをアリババくんに近付けないようにと色々画策しますが、結局最後には知られてしまいます。
アリババくんは勿論ショックを受けますが、何よりもどうして言ってくれなかったのかという気持ちでいっぱいになります。自分が反旗を翻すとでも思われていたのか、信用されていなかったのか、自分は…自分はあくまでバルバッドの人間として扱われ、シンドリアの国民としては認められていなかったのかと。自分がずっと守ろうとしてきた大好きな国に自分の居場所など最初から無かったのだと、優しかった生きてきた世界の裏切りにアリババくんはシンドリアを飛び出します。そうして一人泣くアリババくんのもとへジュダルちゃんがやってきて、ラストに繋がります。

おう…長い。ここまで読んで下さった方は果たしていらっしゃるのか(笑)
とりあえずこんなところです。ジュダルちゃんの手を取ったアリババくんはそれからどうしたのかはまあ脳内補完でお願いします(笑)
シンドバッドさんの苦悩は続きます。あ、ジャーファルさんもですね。
あとこれのカップリングって何なんでしょう?流れとしてはジュダアリっぽいですね。シンババでもオーケーですがこの話ではシンドバッドさんお父さんに近いというか、娘(アリババくん)に近付くなコラとかいうそんな(笑)

それでは長々と説明すみませんでした。本人は凄く楽しかったです。気が向けばちゃんと全部お話にしたいですが、たぶん結構な長さになると思うので…うーん(笑)

閲覧頂きありがとうございました!