差し出された鮮やかな黄色の花。
それをそっと受け取れば、大きな手で髪を撫でられた。

「今日はどこに行って来たんですか?」

そう問えばスッと指される森の奥。あっちの方だと節くれ立った指は南を見る。

「…いつもありがとうございます」

意味もなく受け取った花を持ち直し、ゆるりと香りを吸い込んだ。仄かに甘い匂いに知らず口元が緩む。そんな俺に再び手を伸ばし、大きな手で髪を撫でてくる。ああきっとこのまま力を少しばかり篭められてしまえば俺なんて。フッ、と馬鹿みたいな(いや正真正銘馬鹿だろう)考えを浮かばせては消していく。そうした思考が漂うのも、彼がこんな触れ方をしてくるからだ。きっときっと、彼のせい…なんて。大きくあたたかく、そうして木々の陽光の花の動物の雄大な自然をその身に映すこの人は、ああ確かにとても優しいのだとそう感じた。

「明日は俺も連れてって下さい」

いつからだったか、それは覚えていないけど。繰り返し差し出される花はもう部屋いっぱいで。混ざり合う極彩色の香りにクラリともう酔うばかり。

(だけど、でも、)

「欲しい花があるんです」

ひとつだけ。



「だから明日は、一緒に連れて行って下さいね。マスルールさん」


青に黄色に白に桃
藍に紫、緑に水




(きっと最後はあなたの赤を)






あちらへ連れて行ってと彼とは似つかぬ指を南に指した。






***



マスアリ可愛いね。
マスルルさんおっとこまえ。