見つめる先にある影は、互い違いにもつれ合うこともなく。













「アーリーバーバー」
「ぇ、あ、師匠!?」

何をやってるんだと覗き込めば途端に慌ててこちらに体の向きを変える自分の弟子。…元あった視線の先など今更。

「折角の宴に何一人でボーッとしてんだよ」

ドサリと隣に腰掛け、酒の注がれた杯を呷る。お前も飲めとガッシリ肩を組むと、どこか困ったような顔をした。

「師匠酔ってます?」
「まさか。俺がどんだけ酒に強いかはお前も知ってんだろ」

苦笑するアリババは自身に回された俺の腕に気が向いているようで。いつもと大して変わらないスキンシップだがしかし、それを今日はやたらと気にするのは…、

「そーいやお前、この前ジャーファルさんと何やってたんだ?」
「ッ、え!?」
「っと、あっぶねぇな」

机上にある酒瓶に手を伸ばしたアリババにわざとそんな話題を出してみる。すると大袈裟なまでにビクリと体を跳ねさせスルリと手から瓶を滑らせた。落としそうになった酒瓶をすんでのところでキャッチして呆れたように見やると何度もすみませんなんて、そんな風に混乱したまま頭を下げてきて。嗚呼全くあからさま過ぎる反応にこちらとしてはもう笑うしかないのだろう。

「や、あの、あれはっていうか師匠見てたんですか?!」
「廊下の隅で二人で固まってりゃあ気にもなるだろ。何だよ、何かやましいことでもしてたのか?」
「ちちち違いますよ!……ただ、ちょっと相談に乗ってもらってただけで」

語尾につれて小さくなる言葉と下がる顔。横から見える隠しきれていない朱を頬に散らすアリババにため息を吐きたくなる。そうしていると微かにピリ、と斜め遠くから視線を感じた。そうとは気付かれないようにソッとそちらを窺うと、そこには話題に上がっていた緑灰の人物が静かにこちらを見ていた。

(おーおー恐ぇ顔)

茶化しつつも内心では冷や汗をかくしかない。底冷えするような瞳は彼の人を映す精巧なる鏡のようで。

「なーにを照れてんだよお前は」
「っ!?し、しょ…く、苦し、」

ガバリと両の腕を首に巻き付けウリウリと体を揺らしてやると、目を白黒させ情けない声を上げるアリババ。遠くから突き刺さるものを感じながらも今は譲るつもりはない。

(こんな分かりやすい負け戦もねぇだろうがな)

一通りいじくり倒してから解放してやると、疲れたようにソファにもたれかかる愛弟子。上がる呼吸と共にジットリとした目で見られるが、気にせずに再び杯に手を掛ける。流し込んだものが喉をジリジリと焼き尽くすようなそんな感覚を覚えた。体内へと落ち行く液体と共にこの感情も消化されるなら…なんて、馬鹿な考えだ。

(俺が隣に居るっつーのに薄情な弟子だよ全く)

こいつのあんな視線が向く先など一人しか…ああそうさ、初めから。一度気付いてしまえば何とも分かりやすい二人だ。互いにあんな柔らかな眼を交わせ注ぎ合っているというのに…それなのに縮まる事の無い距離は。

(ジャーファルさんは何をしてるんだか)

こんな危なっかしい奴を野放しにするなんて俺なら考えられない。…俺なら、な。勿論あの人の考えなんて俺に推し量れるものではないだろう。きっと現状、立場や思いの深さすらあの人を縛り付ける鎖にしか。

「師匠?」

こいつもきっと、色んなものに縛られ身動きが取れないんだろう。夜闇の中灯る光に照らされた少年はただ、真ん丸い瞳を不思議そうに此方に向けるだけで。ゆるりとアリババの頭に手を伸ばし、くしゃりと金糸をかき混ぜる。細く艶のある髪は手触り良く、付いた癖さえ愛おしく感じる程には…それ位には、

(それ位には…俺もお前が好きなんだが、なぁ)

数度撫で梳いてから腰掛けていたソファから身を起こす。依然こちらを見上げるアリババに軽く手を振ってからその場を立ち去った。本当にらしくないと苦く上るものを飲み下し、ジャリジャリと鳴る道を進んで行く。別に殊勝な心持ちである訳でも無ければ応援してやろうなんて気もサラサラ無い。…だが互い違いになった気持ちと合わない視線がただただ妙な気分にさせる。それだけだ。

(ああ、だけど)

だけどもし、あそこまで相手を想える視線の先が交わる時がきたら。その時は、

(目一杯祝福してやろう)

どちらも結局、形は違えど自分にとって大切な人物である事は変わらないのだ。

「あーあ…ったく、やってらんねぇよなー」

遠くで鳴り響く鐘の音を聞きながら、俺は広がる空へと大きく伸びをした……。







***



おおおおおおすみません何だか色々おかしいっていうか頂いたリクエストに沿ってんのかこれみたいな話ですみませんんんん(土下座)

まずは伍弥さんいつもお世話になっていますありがとうございます!

つかず離れずなジャファ→←アリ←シャルでアリババくんとシャルさんのお話ってことでしたけどもう何だか…え、何だかなぁな出来で申し訳ないですヽ(^p^)丿

苦情は!いつでも!どうぞ!!

ええっとそれでは5000打企画にご参加下さり本当にありがとうございました!