何とかの包み焼きに名前の分からない果物の盛り合わせ、変な顔した魚の香草蒸しやとにかく何か凄い肉と野菜の炒めもの…目の前に広がる良い匂いを漂わせる皿の数々に一瞬言葉を失った。

「…これ全部作ったのか?」
「はい。良い食材ばかり揃っていたのでつい、」

やっぱり作り過ぎただろうかと困ったように言う白龍。俺はそんな彼に尊敬の念を抱くしかなかった。ここまでのものを苦も無く作れるだなんて本当に凄い。…昼餉時、アラジンはヤムライハさんと自室で魔法の勉強、モルジアナはマスルールさんと体術修行。偶然暇だった自分は同じく時間を持て余していたようだった白龍に話し掛けた。するとこれから昼食を作るという。良ければご一緒にと言われ、その言葉に甘えて現在に至る。

「アリババ殿?」
「あ、いや、やっぱお前ってすげぇな」

料理に見惚れていた意識を引き戻して全部美味そうだと零せば先程までの不安そうな表情はどこへやら、途端にありがとうございますと笑みを上らせた。早速食べようぜとテーブルに着くと、何故かすぐ隣に腰を下ろす白龍。丸テーブルなので必然的に隣にはなるのだがしかし、距離があまりにも近い気がする。

「えっと、白龍?」
「何ですか」
「ここだと狭くないか」
「いいえ?」

全然大丈夫だと当の本人が言うのなら良いか。せっかくの料理が冷めてしまうのも勿体無い。目の前にある皿に手を伸ばした瞬間、横からヒョイと違う手が伸びてきてその皿を持ち上げた。行き場の無くなった手を数回開いたり握ったりしてから横に視線をやると、胸前に皿を持ち上げたままどこか楽しそうな顔をする人物が。

「えーっと…白龍それ食べたいのか?」

なら別に取らねえから机に置けよ。
そう口にすると首を横に振られた。

「いいえ、特にこれが食べたいという訳ではありません」

では急にどうしたというのか。首を傾げていると、その間に白龍は皿上から野菜で何かを巻いたものを取り上げ、何故か俺の口元へと持ってきた。
(あれ、なんか嫌な予感がする)

「どうぞアリババ殿」
「やっぱりか!」

口を開けて下さいとにっこりと輝くような笑顔を振り撒く白龍に頭を抱える俺。

「いやいやいやどうしたんだよ白龍、何か悪いものでも食ったのか?」
「失礼ですね違いますよ。アリババ殿では無いんですから」
「お前の方が失礼だろそれ!」

そんな言葉の応酬をしても依然口元に寄せられたものは退く気配がない。

「俺が作ったものではお気に召しませんか?」
「違っ、そういう事じゃなくてだな…大体それをしたとして何が楽しいんだよ」
「楽しいですよ?」

自分はとてもと微笑む白龍の意図が理解出来ない。恋人とか可愛い女の子にするならまだしも俺にしてどうするんだよという思いが脳内で溢れる。…だが、まあ別にされて困る訳でも減る訳でも無いから良いかという一種の諦めのような気持ちが占めてきて。先程から良い香りが鼻孔をくすぐる度に食欲を刺激されてたまらない自分にとって半ばおあずけをくらっているような現状はツラいものがある。とりあえず煽られたこの欲を満たしたい一心で俺は小さく頷いた。そうしてええいままよと唇に寄せられたものにかぶりつく。

「ん、……ぁっ、美味い」
「そうですか。良かった」

ホッとしたように息を吐いた白龍は嚥下後もう一つどうぞと再び口元へ差し出してきた。

「や、もう一回やったし良いだろ…それよりお前も食えよ」
「まだ満足していないので」
「あのな……あああもう分かったよ、降参!」

微塵も譲る気がなさそうな彼は生来の頑固さ故か、こうと決めた事は決して曲げようとしない。ここしばらくの付き合いで嫌と言うほど理解したソレについてはもう諦めるしかないだろう。…それからは半ば自棄食いに近く、胃に入ったものは全て白龍の手によって与えられた。次から次へと口に運ばれるものは何もかもが美味しく、初めは羞恥心との戦いだったがもはや途中からはそれも忘れて食事に集中してしまっていた。





「…っ、あー美味かった!ご馳走さま!」

最後の一口を飲み込み白龍に頭を下げる。

「結局ほとんど俺が食べちまったけど良かったのか?」
「俺はアリババ殿が俺の作ったものを喜んで召し上がる姿を見れただけで充分です」

満足です。我が儘を聞いて下さってありがとうございました。

(ああ、ちくしょう)

そんな顔で笑うなよな。

(そんな顔されたら、ぜんぶ許したくなる)


「いーよ別にこれ位。こっちこそ美味い飯ありがとうな」
「どう致しまして。…あ、ちょっと動かないで下さいアリババ殿」
「ん?」

笑い合っていると、何かに気付いたように白龍がこちらに身を乗り出してきた。言う通りにじっとしていると左頬を手で覆われ、反応する隙も無く右頬に唇が降り落ちてきた。

「ぇ、……ッひ!」

ちゅっ、と可愛らしい音を立ててされたキスに体も思考も停止する。それから追い討ちをかけるかのようにベロリと舌で舐められ肩が跳ねた。

「は、な、なな、何を」
「ソースついてましたよ」  

上手く言葉を紡げない自分とは違って、白龍はただ冷静にそう告げた。

「そ、そーす?」 
「ええ、ソースです」

まるで小さい子どものようですねと笑われ、顔に熱が集まるのが分かる。

「だっ、たら…口で言ってくれりゃあ良かったのに」
「すみません、つい」
(ついでお前は人の顔を舐めるなよ!)

こんがらがった意識の中、バクバクと五月蝿く鳴り響く心音にただひたすら沈まれと言い聞かせるしか出来なかった。こんな風に一方的に心乱されるのは初めてかもしれない。笑みを絶やさない白龍を恨めしく思ったそんなある日の話……。




***



初めましてこのえ様、この度は5000打企画にご参加下さりありがとうございました!お祝いのお言葉も本当に嬉しかったです(*´▽`*)

いけいけおせおせな白龍くんに戸惑うアリババくんということでしたが…おおお何だかおかしな感じに…すすすすみません(土下座)

こんなもので宜しければどうぞ受け取ってやって下さいまし!

それでは本当にありがとうございました!