俺とアイツが出会った経緯といえば何でもない、単に同じクラスで且つ席が隣だったからだ。実によくある話だが、大体知り合うキッカケなんてそうそう劇的なものなど起こり得まい。まあとにかく最初の接触は自己紹介という名の挨拶で。



「なあ、お前の名前は?」

俺はアリババっていうんだ。
窓際最後尾、そんなベストポジションから隣に身を乗り出せばおかしな顔をされた。

「聞こえてる?」

おーいと手を眼前で軽く振るとクツリと喉奥で笑われて。

「聞こえてるよ…アリババクン?」
「呼び捨てで構わないけど」
「そ、俺はジュダル」

結わえた黒く長い髪を揺らしつつ、ジュダルは緩慢な動作で手をこちらに向けた。差し出された相手の手をしっかりと握って上下に揺らす。

「しばらくこの席だろうしよろしくなー」
「ああ」

間もなくHRが始まる時間だ。入学式を終えたばかりのテンションで騒ぎつつも、やはり新しい生活スタイルへの移行により心身共に疲れている。さっさと家に帰りたいと考えていたが、ジュダルとだらだらと会話しているとそんな感覚も遠くなっていった。正直不安な面もあったがこれならやっていけそうだと一人頷く。

「ジュダルは何でこの高校選んだんだ?」
「あー?ババアに薦められたんだよ」
「ババア?」
「気にすんな。お前はどうなんだよ」
「俺は家が近かったから」
「ハッ、安直」
「何だとこら」

将来のこともちゃんと考えて選べよと言われると痛いが、ジュダルだって人に薦められての進学じゃないかと知らず頬を膨らませてしまう。

「不細工なツラ」
「何だよ本当さっきから喧嘩売ってんのか」
「買うなら買うで良いぜ?別に」

ただし俺強ぇからそれ相応の覚悟しろよとか言われたら、なぁ、

「いや、遠慮する」

真顔で左右に首を振るとあっそ、と軽い調子で終わった。あれもしかして冗談だった?

「ジュダルっていつもそんな感じなのか?」

そんな感じって言われても分かんねぇかもしれないけど。案の定眉間に皺が寄って意味分かんねーって顔された。

「あ、そういえば知ってるか?ここの学校って三年間クラスの入れ替えは無いって」

多方面、スポーツやら芸術やら何某かに特化した優秀な特待生を多く引き入れる率が高いこの学校は、同種の生徒を基本的に纏める傾向がある。カリキュラムの都合等で、一年最初に確定したクラスで三年間過ごす方法が一番より良く生徒を育てられると何年か前に決まったらしい。切磋琢磨しつつ視野と可能性、そして何より繋がりを広げる目的があるのだとか。更にこの学校は他校よりも行事が多く、クラス学年種別関係無く楽しめるありとあらゆる内容が一年通して連ねられている。クラス対抗に学年対抗、種別対抗や時には学校全体で取り組むもの…学校に掲げられた交流による自己の育成と他者との連携は間違いようもなく将来何らかの形で役に立つ。卒業者がわざわざ来訪してまで新入生に語る内容に嘘偽りは無さそうで。一期一会とはよく言ったものだが、それならば最初に言葉を交わしたジュダルとは出来ることなら(永くとまでは言わないが)せめて三年間は仲良くしたい。そう思う訳で。

「それに、お前となら楽しい時間が送れそうだし」

俺の直感は当たるからな、と自信満々に言えばバカな奴だと失笑を受けた。何故だ。

「ま、でもそこまで言うなら俺を楽しませろよな」

俺毎日クソつまらねーし。お前が少しでもこの退屈を紛らわせてくれんなら仲良くしてやるよ。
不遜な物言いにもはや腹が立つというより呆れるしかない。しかし最初気だるい様相だったその顔は、今はどことなく輝いていて。不覚にも自分もワクワクしてきた。

「じゃあお前も俺のこと楽しませてくれよ」

にやりと笑えば相手も同じように返してくる。とりあえず初日、俺にはジュダルという友人が出来た。








ハローハローハロー?
(桜舞い散る午前の日)