不純異性交友日記 | ナノ



 時間を空けずに溜息を吐かれる。マルコだ。「なんだよ」うるせぇな、わかってんだよ。そう言いたいのを我慢して、そっぽを向く自分がいかにもガキ臭くて情けない。コツコツと一定のリズムを刻んで指が机を叩いていた。それに混じって溜息。――何かを言おうとして口を開け、それから黙り込む。

「だからなんだよ」
「……ジャンはもっと、理解の出来る人だと思ってた」

 マルコの視線は未だに叩き続ける指先に向いていた。コツコツ、コツコツ。うるせえ、苛々がさらに募って、その指を軽く叩いた。「うるさい?」「……ああ」「僕は止めないよ。嫌なら、追いかけなきゃ」コツコツ、コツコツ。

「僕はこのことに関しては、あまり触れたくない」
「何、言ってんだ? お前」
「だって、ジャンが一番わかってるんだろ?」

 コツコツ、コツコツ。嫌味なくらい音が止まない。

「何が、だよ」
「今、何をすべきか。ってこと」
「……オレが行って、アイツの機嫌が良くなるか? 逆だ。――それより、マルコが行けよ。ナマエはそっちの方が喜ぶだろ」

 マルコがオレを見た。それから溜息を吐く。「どうして?」既にわかりきったような、それでいてオレを憐れんだような、そんな顔だった。下がる眉、傾げられた首、そして鳴りやまない音。

「お前、好かれてんだろ。じゃねぇと休日一緒にいようなんてなるかよ」
「……ジャンも一緒に、ってことだったと思うよ、あれは」
「マルコと2人が恥ずかしくてオレも誘ったんだろ、どうせ」

 目が大きく見開かれて、音が止んだ。「え?」「は、違うのか?」「本気で言ってる?」「冗談で言うかよ、バカ」2、3回の瞬き。それから溜息。――なんだよ、一体。

「わかった。僕が行くよ。……ジャンはきっと後悔する」

 そう言って席を立つ。残されたオレと、見るに堪えないスープの残り。残飯、じゃねぇかよ。コレもオレも。そう思って、腹立たしいけれど、結局は自分が引き起こしたことだった。うまく、いかない。

「……オレには、ミカサがいる、だろ」

 言い聞かせるようにして呟いた。そうだ、ミカサがいる。アイツにはマルコがいて、ミカサにはエレンがいる。……どこまでも、オレは不幸な奴だ。

「畜生、なんでだよ」

 望んだものが何ひとつ手に入らない。欲張った自分が悪いのか、惚れやすい性格が災いしているのか。「わかんねぇ」これでマルコにまで見放されたら、どうしたら、いいんだ。

 思わず溢れた涙を幾ら拭っても止まらない。情けないし、恥ずかしい。こんな時に慰めてくれるヤツもいねぇ。1人も味方につけられないこの性格は、どうしたらいいんだろうか。つい、本音が漏れる。つい、憎まれ口を叩く。こんなの、嫌われて、当然だ。


 それでも「仲良くなりたかった」そうナマエは言ってくれた。こんなオレに笑ってくれた。心配までしてくれた。どうして、オレだけじゃねぇんだよ。マルコにそんな顔、見せんなよ。頼むから、お願いだから、なんて。もう、無理な話か。

「笑えねえ……」

 
 パンが溶けたスープはどろりと重い。気を抜くと喉元につっかえそうになる。水で流し込んで、思い出すのはナマエのことだった。あの時、アイツが水被ってなければこんな思いしなくてすんだんだ。「オレは……悪くねぇよ」机に伏せて、何度も何度も呟いた。悪くない、オレのせいじゃない。――振り向いてくれないアイツが悪い。



そんな考えだから、嫌われたってわかってるんだけど、な。

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