ねえ、大丈夫? その声に顔を上げると、見慣れた顔があった。「ああ、マルコか」ふとした瞬間、勝手に下がっていく瞼擦って「大丈夫だ」と答える。マルコが、首を傾げて溜息をつくのが不思議だった。
「目の下、すごい隈だよ」
「あー、寝れねんだよな」
「訓練で疲れてるはずなのに寝れないのはおかしいよ」
それもそうだよな。毎日必死こいて訓練してんだ。いつもならベッドに入れば、直ぐ熟睡だってのに。くそっ、なんなんだよ。
「溜まってんじゃねーの?」
「は? コニーなんだよ?」
「オナニーしたらオレ、すぐ寝れるけど?」
「ハァ!?」
「コニー、そんな!」
マルコが慌てるのも無理はない。ここにいるのが男だけじゃないからだ。男女問わず、様子が気になるのか意識がこっちに向かってくる。ったく、コニーのやつめ。
「お前、ベッドの上でしてたのか?」
「ああ。あとトイレとか。仕方ねーよ。生理現象だから!」
「汚え……」
「なんだよ、お前しねえのかよ!」
訓練兵団に入ってから、そういえば一度もしていない、気がする。あれ? いや、だってんなことする暇なく寝てるしな。
「こ、コニー。その、何か、えっと」
「なんだ?」
「いや、ほら」
しどろもどろになるマルコ。オレにも伝わってねーのに、コニーに伝わるはずがない。「ォ……とか」「聞こえなかった、なに?」「……ズだよ!」
「あ、オカズ?」
口に出してから、その声が意外と大きくて口に手を当てる。辺りを見回すと、こっちの様子を疑ってる雰囲気はない。……よかった。
「ないぜ」
「は?」
「弄れば勃つし、擦れば出る」
「はは、まじかよ……」
こいつ、何なんだよ、ほんと。オナニー極めてんの? 何しにここきてんだよ。つーか、女ならいっぱいいんじゃねえか。ほら、ナマエとか。──あ? 今、オレ何考えた? やっべえよ、「末期だ……」
「末期? え、ジャンもしかして不能?」
「んなわけねえだろ! 他の話だ!」
「よかったなー、お前。子孫は残せるみたいで」
「うっせーな!」
コニーを追い払って、机に伏せる。マルコがぽん、と肩に手を置くから、少し顔を出す。
「悩みとかあったら、聞くから。あんま、思い詰めないで」
「……あー、今本気でマルコが女じゃねえこと残念に思う」
「え?」
「なんでもねえ。ありがとな」
はッ、くっそ、なんでだよ。弄る手は止まらない。ひさびさに触れた、その堅さとあまりの気持ちよさに酔う。擦る速度を速めていくと、つい閉じた瞼にナマエの顔が浮かんだ。なんでだよ、なんでアイツなんだよ。聴いたことのない、妄想の喘ぎ声が鼓膜を刺激していく。──止まらねえ。
「ッ……はァ」
手のひらに吐き出された白濁は、いつもより濃くドロリとしている。「汚え」オレから出た精液が。オレがしていた行為が。何より、アイツを考えていたことが。
「なにしてんだ、ほんと」
虚しくなる、情けなくなる。どうせ触れることなんてないのに、想像だけが止まらない。サイテーだ。オレの中で、ナマエを汚した。
「くそっ」
なぜか、涙が溢れた。どうして、こんなにも寂しい想いをしなきゃならないのか。オレには皆目、検討もつかない。
甘く、冷たく、苦くて、熱い