不純異性交友日記 | ナノ



 すきだ。そう、小さく呟いて、この気持ちに偽りなんかないんだと軽く頷いた。笑った顔も、不貞腐れた顔も、声も、全部、全部が好きだ。少し勘違いしやすい所、考え足らずな所も好きだし、あの柔らかい頬の感触は忘れられない。「ジャン」と呼ばれた名前に、ニヤけそうになるのを必死に堪えるくらい好きだ。他のヤツに呼ばれたって、何も思わないのにナマエが口にすると魔法みたいだ。オレを幸せにする魔法の言葉。

 きらいじゃない。同じく小さく呟いて、自分に言い聞かせる。ナマエと笑いあってるマルコは嫌いじゃない。2人の笑った顔はすげえいいと思う。だからといってオレまで笑えるかと言ったら素直に頷けない。嫌いじゃないんだ。嫌いではない。マルコは誰よりもイイヤツで、良き理解者だ。なのに、大事な所は理解してくれないなんて溜息を吐いたけど、嫌いにはなれない。マルコは好きだ。ただ、ナマエと楽しそうにしているマルコは嫌いじゃないけど好きにもなれない。

 そんなことを思っていたら、いつの間にか夜が明けた。周りのうるさい鼾に舌打ちをして、窓の外の日を眺める。「うまくいかねえな」不満を漏らし、欠伸を1つ。「……寝るか」起床時間にはまだ早い。せいぜいあと30分程度は休めるだろう。

 眠気が襲う朝食の時間もナマエがオレの名前を呼べば、きっとすぐに目覚める。そんな毎日だったらどんなに幸せなんだろうか。「おはよう」と言い合って、一緒に過ごせたら……って、早ぇよ。まだだろ。つーか、一方的すぎんな、オレ。気持ち悪ぃ。

 恥ずかしくて、情けなくて、慌てて布団を被った。





「おはよう、ジャン」
「……おう」

 思わずぶっきらぼうに返事をしてしまうのは、顔を背けてしまうのは、照れ隠しだ。「朝弱いんだから、もー!」「お前が元気すぎんだよ、うるせぇ」思ってもないことを口走って、後悔するのはいつになれば止められるのだろう。

「――そんなこと思ってないんだろ」
「……は?」
「僕、ちょっと席外すね。アルミンに話があるんだ」

 そう言い残して席を立つ。「おい、マルコ!」オレの呼びかけに手を上げて、「アルミン、あのさ……」と、少し離れた席でミカサとエレンと飯を食ってるアルミンの隣の席に腰掛ける。なんだよ、意味わかんねえよ……。

「……ケンカしたの?」
「は? してねえよ」
「マルコ、怒ってなかった?」
「……さあな」

 確かにいつもより低めの声だった気がしないでもないが、寝起きだから。そういうことにしておく。じゃねえと、心が折れちまいそうだ。

「あ、サシャおはよ。コニーもこっちおいでよ!」
「……なんで呼ぶんだよ」
「2人だとつまらないでしょ!」

 ………………つまんないとか、マジか。



 結局いつも以上にうるさい朝だった。周囲の馬鹿騒ぎについていけないのは、色々重なりすぎているからだ。その日、マルコはオレの隣に来ることはなかったし、夜まで話すこともなかった(話すと言っても、「おやすみ」とそれだけだった)。どうなってるのかサッパリわからないものの、不甲斐ない気持ちで一杯なのはなぜだろう。


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