不純異性交友日記 | ナノ



 確実に後れをとったオレ。いや、初めは誰よりも最初を走っていたのに、調子に乗ったらあれよという間に抜かれてしまう。こんな童話、あった気がするな。なんだっけ、もう忘れてしまった。

「マルコ、明日勉強教えて欲しいんだけど」
「いいよ。じゃあ、いつもの所で」

 前方で微笑み合う2人をどついてやりたい。なんだ、いつものって。オレとナマエにはそんなもんねえよ。つーかオレとマルコでさえも「いつもの所」で通じる場所なんかないんだが。……着々と距離を進めるマルコ。そして声をかけてもらえないオレ。勝敗が目に見えてわかるからこそ、溜息が漏れる。どうしたら諦められるのか、考えても答えは見つからなかった。嫌いだと心に言い聞かせてみても、視界に入る度に心臓がうるさい。末期だ、そう思う。恋に落ちるのは簡単なのに、ここまで追い詰められても嫌いになれないのは、もう狂ってるとしかいいようがない。

「――ない? ……ねえ、ジャン聞いてる?」
「……は、オレ?」

 今、ナマエ、ジャンって、言わなかったか? オレの名前、呼んで「だから、立体機動の話だって。上手な吹かし方、知らない? わたしよくガス切れするの」……くれたんだよな?

「お前、怒ってたんじゃ……ねえのかよ」
「え、ジャンが怒ってたんでしょ? わたし次の日には忘れちゃうし。それなのに、ずっと怖い顔してるんだもん、今も声掛け辛かったけど、しょうがないじゃん」

――ジャンは、立体機動に関して言えば右に出る人いないもん。

「なんだ、それ……? ナマエ、ずっと怒ってると、思って、んで、それで、謝りたくても、オレ……。マジ、かよ」

 怒ってないのかよ。オレの勘違いかよ。だっせえ……。きょとんとしたナマエの顔。それからぐっと眉を顰めて「何それ、わたしそんな性格悪い子だと思われてたの!」と声を上げる。マルコの笑い声。「2人とも同じ勘違いなんて、面白いね」……は?

「マルコ!」

 慌てたようにナマエが手を伸ばす。口を塞ごうとして、その手が簡単に掴まれていた。……羨ましい限りだ。

「だってさ、僕にずっと相談してくるんだ。ジャン怒ってるかな? って。僕、言ったよね? ジャンは怒ってるんじゃなくて、ナマエに当たって後悔してるだけだって。って」
「だ、だってさ! 本当に怖かったんだよ!」
「ジャンは元からこの顔じゃないか」
「……おい、どういうことだ」

 言われてみれば、そうかも。と容赦なく笑い始めるナマエの頭を軽く叩く。「痛い!」叩いてから、後悔した。また、嫌われる。くっそ、なんで手が出るんだよ!

「ごめん、ごめん、笑いすぎた。――この前は、ごめんなさい。ジャンが、心配で、その……お節介だったよね」

 そう言って頭を下げた。マルコの視線がナマエを捉えて離さない。優しい、顔。それに気付いてるのは対面しているオレだけだ。「オレが、悪ィんだ、アレは。お前が謝る必要ねぇよ」だから、顔を上げてくれないか。ゆっくりとオレの様子を伺うようにして、頭を上げる。

「じゃあ、教えてくれる?」
「ああ。教えるさ。オレくらいしか、上手に教えられるヤツいねえからな」

 なんて格好つけてみる。これ、本当に恰好ついてんのか? ちょっと不安な所だが、ナマエが笑顔を向けてくれたから、それでいいって思っちまう。――なんだ、オレにも勝算ある、じゃねぇか。

「ありがとう。ねえ、マルコ! マルコ信じて声かけてみてよかった!」
「いいんだ。2人が仲直りしてくれたら、それだけで」
「うう、マルコ大好き!」

 ……あれ、今、なんか、「は、恥ずかしいよ、ナマエ」なんだ、幻聴か? 「ジャン、よろしくね。ばいばい」――ああ。頷いて、去っていく背中を見つめる。はあ、聞こえる溜息。視線をやると、顔を両手で覆うマルコがいる。指の合間から赤い頬が見えた。「そういう事、どうして簡単に言えるんだろう」小さな呟きが聞こえる。

 浮かされた以上の絶望が襲った。「アイツにとっての挨拶なんじゃねえの?」そう言って、丸くなった背中を叩いてやる。結構、強めに、だ。マルコが咽る。

「ああ、悪い。強かった」

 全く感情の籠っていない謝りをかけて、咽たマルコをそのままに、その場から去ることにした。

――オレだって言われてえよ、畜生!

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -