だって、だいすきなんだもん! | ナノ



 渡された短剣の柄をぐっと握りしめる。一歩、踏み出して突き刺すソレを片手で払いのけ、懐に入るスピードの速さに思わず身を引いた。そのまま床に仰向けに倒れ込む予測はしていなかったのか、見開いた目。敵を見失って余った力に耐え切れない足を払って、起き上がる。

「はい、おわり」

 首筋に立てた剣はもちろん、木製の練習用。「……ッ、はァ」息を吐いて腕で顔を隠す訓練生に手を差し出すと、ちらり見てから「すんません」と手を出した。

「速いね、びっくりした」
「やられたら無意味です。スピードなんて」
「えっと、ジャンくん? だよね。わたしより背丈も高いし、幾ら身を屈めても。ってこと。懐に入るより、こうして」

 ジャンくんの右手に短剣を持たせ、その腕を引く。つんのめった彼のお腹に膝を入れるふりをしつつ「こっちの方がいいと思う。そのまま、背中に肘うちでも手掌で抑えつけるのでも。悪くないでしょ?」流れを披露すると、「ああ、そうか」と納得してくれる。

「わたし、力もないし速さも男の人には負けるけどさ。いろんなシュミレーションするの。体術、嫌いな人も多いと思うし、何の役にたつんだって思うかもしれないけど」

ジャンくんは図星だったのか、視線を泳がせる。

「上司を負かせるにはこれしかないの! 怒らせた時に投げられたら、受け身。何より受け身! 身を守るにはコレ! 反撃できそうなら反撃。そして受け身」

大切でしょ?

「……は、あ」
「え、大切だからね! みんなはまだ知らないかも知れないけど、わたしのだいすきなリヴァイ兵長はね、殺す気でくるからね? みんなもしっかりやろう」
「ころ、す?」
「鍛えなきゃ駄目よ。好きな人から殴られて死んで堪るか! ん? でもそれもいいかな。本望っていったら本望? 潔癖な兵長がわたしの血で汚れる姿も……」

「たまにはマシにやってるかと思えばコレか」
「……へ、いちょ?」
「その汚ぇ血、浴びてやるから遠慮しないで来い」
「だ、抱き着いても、いいんですか、兵長!」

 少しかしずく首。わたしに向かって伸びる両腕。「すきで、ぶぎゃあああああ!」思い切り投げられました。大丈夫、受け身はとってあります兵長!

「こういうことだ。てめぇらも見てないで真面目にやれ」

 ざわざわとしていた訓練生の背筋がピンと伸びる。ああ、ジャンくんそんな目で見ないでくれたまえ。哀れまなくてもいいのよ。幸せだから!

剣を差し出せ、命を捧げろ、兵長に!
(「あの人頭、大丈夫なのか」「で、でもナマエ・ミョウジって言ったら、調査兵団の中で最も有名な女の人じゃないか」「アルミン……そう見えるか?」)


第104期訓練兵団。ふらりと現れ指導するナマエに疑問を持ち始める。

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