だって、だいすきなんだもん! | ナノ



 わたしは巨人に恐怖が湧いたことがない。所詮この世界なんてものは弱肉強食だし、幼い頃に愛でていたはずの蛙が、いつの間にか手のひらで無惨な姿になった記憶もある。恐怖が生むのは慎重さだ。怖いなら突っ込むな、逃げろ。そう言いたい。思考が上手く働かなくて、ソレを押さえ込み、突発的な行動に出るのは駄目だ。それは死にいくこと。

「わかる?」

 訓練生の大半はその言葉に固唾を飲んだ。敵前逃亡が死罪だと、一番初めに教わらなかったか。そんな顔だった。

「死にたいなら突っ込みなさい。生きたいなら考えなさい。以上!」




「……って教えてくれたのナマエさんですよ?」
「えへへ、格好良かった?」
「いやいや、絶句? なんつーか、じゃあオレ達は何に向かえばいいんだって」

 特別指導、そんなことをした。数人の先輩が、それぞれの自分の役職について語る。大体が誇りを持て。だの、いやいやふざけんじゃねーよ。つまんねえ。な内容だった。こうやって、わたしの話をしっかり覚えていてくれたエレンが可愛くて仕方ない。

「だから、兵長も怖くないんですか?」
「それは違うよ。あの人は誰よりも強くて優しい。怖いって言ってる方が筋違いなの。こんなに守ってもらって、ねえ?」

 エレンくんは瞬きをして、それから苦虫を潰すように笑った。

「絶対的強者に対する恐怖。これは自分に力がないから。でも一番愚かなのは、相手との力量を計れずに”できる!”と無鉄砲に突撃すること。負けると思ったら退きなさい。そこで人が食われていても。2人死ぬことは避けないと、だって」

私たちは死ぬために力を得た訳じゃないのよ。

「――そういうとこ、尊敬します」
「え、他は?」

 えっと、じゃあ。失礼します。と去っていくエレンくん。なに、どういうこと、え、尊敬は?

「バカが語ってんじゃねぇ」
「兵長?」

 振り向くとずいぶん近くにいた兵長。しまった! 語りに夢中で気配に気付けなかった! 不服!

「ど、どこから聞いてたんですか!」
「あの人は誰よりも強くて優しい、だと? どの口が言ってんだ、あ?」
「だって、優しいじゃないですか。そんな兵長がだいすきなんです」

 ぐっと眉を顰めて舌打ちをする。視線は対してかわらないのに、圧倒的な威圧感。それに、安心感。

「へいちょー?」
「黙れ。死ね」
「な、なんで? え、何でそうなるんですか?」
「聞こえなかったか?」

 すこぶる機嫌の悪い兵長も、そりゃあ格好良くてすきですけどね? なんて心の中で呟いておく。兵長はふいっと横を向いて、すたすた歩いていってしまう。な、なんだったんだろう? ってゆーか、兵長から声かけてもらえるって、すっごい幸せなんだけど!

だけど、ふわふわしながらの格闘は止めましょう。受け身を取り損ねます。

エレンくんと談話、のちに兵長に舌打ちされる!
(「あれはどうみても……」「照れ隠し、ですよね」「あ、ナマエぶっ飛ばされてる」「空中で笑顔って、どんだけ!」)

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -