だって、だいすきなんだもん! | ナノ



 調査兵団特別作戦班――通称、リヴァイ班。兵長を筆頭に力のある兵士が集められたそうだ。毎日の日課であった兵長への挨拶は不可能となった。心境の変化、とかそういうことではなくて。物理的に、無理なんだ。リヴァイ班は、旧調査兵団本部へと身を置くことに決まったそうだから。

 暫くはハンジの元で働くことになった。ハンジの奇行に肝を冷やすモブリットを笑って、一緒になってハンジを止めにかかる。それはそれで楽しかったし、あっという間に時は過ぎていく。ソニーとビーンが何者かに殺害され、はて今度は何を糧に生きていけばいいのだろう。と自分の存在意義を失った。だって、わたしは兵長に心臓を捧げたの。兵長の隣で働くこと以外を考えたことがなかったの。「いいよ、ずっといなよ」とハンジは笑ってくれたけれど、なかなか素直に頷けないわたしがいた。

「分隊長を止められるのはナマエしかいない。頼む、ここにいてくれないか」

 今にも泣きそうなモブリット。「だって、モブリットの仕事だよ?」そう言えば、頭を抱えてしまう。……よっぽど辛いんだなあ。ハンジ、愛されてるなあ。少しくらい、部下の気持ちも汲み取ってあげなよ。とモブリットの為にも忠告してあげようと思った。

「1ヶ月後の壁外調査に向けて、新兵に教育があるでしょ。そっちに行けるように団長に掛け合おうと思う。調査時は、ハンジの隊に戻るから。……ごめん、何かしてないと、おかしくなりそう」

 わたしの言葉にモブリットがはっと目を見開いて、それから視線を逸らした。「そう、か。そうだよな。悪かった。お前にはお前にしかできないことがある。お互い、頑張ろう」そう手を差し伸べてくれる。ありがとう、そう手を伸ばしたら、彼も笑った。――上司に悩みを持つ同士だね。そうだな。わたしたちは溜息を吐いた。




「ネスさん、班員に誰が欲しいの?」
「そうだな……。アルミン・アルレルト。あの子の考えにはいつも驚かされる」
「そうだねー。訓練兵の時からアルミンくんは目立ってましたよ。普通だと思いつかないことを冷静に考えて、しかもそれがことごとく成功へと導かれる。――本当に頭の良い子」

 1ヶ月……それは長いようで短いし、短いようでうんと長い。調査兵団に入団した子達のほとんどが、憲兵団を蹴ってやって来た。それは驚く程嬉しかったけど、その嬉しさよりも辛い気持ちの方が大きかった。それぞれ優秀な子だ。簡単に死なせてたまるものか。そうは思っても、みんなを守るなんてそんなこと言えなくて。「ナマエさん」と笑いかけてくれる子達に、笑顔を返そうにも唇の端が痙攣した。――本当に、情けない。

「ナナバの所はクリスタ・レンズを欲しがった」
「……あの野郎」
「おいおい、殺気が漏れてるぞ」

 ネスさんの笑い声。ナナバ、手出したらわたしが直々に息の根止めてやるから待ってろよ。「まあ、でも、本当はナマエが欲しかったって話だ。良かったな」ぽん、と肩に手を置いてネスさんはニヤリ、口の端を上げる。

「絶対行かない」
「ナナバが振られるのは気分が良いな」

 もう、ネスさんってば! 声を上げるとネスさんは笑って何処かへと行ってしまった。1人残された廊下。さて、これから何をしよう。そう考えていると、「ナマエ」と後ろから名前を呼ばれた。振り向けばエルヴィン団長が手招きをしている。慌てて足を進め、敬礼をすると「直れ」と団長は笑った。

「律儀だね、いつも」
「いいえ。敬意を表すべきに値する人物には敬礼をすべきと考えているだけです」
「そうか。では、礼を言おう。私も可愛い部下に敬意を表されるのは嬉しいんだ」

 団長がその大きな手で頭を撫でてくれるのは、なんだか気恥ずかしい。「あの……それで、何か用があったのでは?」ぴたり、止まる手。そうだな、と息とともに漏れた声。

「次の壁外調査、私の元で力を発揮してもらう。先頭だ」
「……わたし、が? 団長の?」
「ああ。やってくれるね?」

 首を横に振れるはずがなかった。残されているのは敬礼のみだった。一体、何がどうなっているのか、わたしにはサッパリわかっていなかった。


壁外調査まであと僅か
(「ナナバ、クリスタに手出したら殺す!」「え、嫉妬してくれてるの?」「ちょ、近寄らないで、あ、モブリット、待って! え、何で無視!?」)

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