だって、だいすきなんだもん! | ナノ



 「えっと、べりゅ……、べるとりゅ……、フーバー訓練兵いる?」

 ひたすら噛みまくりました。何か問題でも? 辺りの訓練兵が俯いて必死に笑いを堪えている中、コニーの耳障りな笑い声が聞こえて「コニー・スプリンガー!」名前を呼ぶ。すると、はっとした顔を浮かべ「すみませんでしたー!」頭を下げた。よし、許してあげよう。

 フーバーくんは、ひょろりとした長身痩躯の男の子で、普段あまり人と会話しているところを見たことが無い。いつも行動を共にしているのはライナーくん、か。「あと、ライナー・ブラウンも。ちょっと手伝って欲しいんだけど」そう付け足すと、2人が立ち上がる。

「着いて来て。他の子たちは一旦、待機」

 そう言って、部屋を後にする。「何か、するんですか?」そう質問するのは、やっぱりライナーくんだった。

「倉庫の荷物、取り出せなかったの。脚立壊れててさ。2人、大きいから届くと思って」
「ああ、そういうことか」
「ごめんね、フーバーくん。噛みまくってすっごい失礼なことしちゃった」
「いいえ、大丈夫です」

 少し照れたように笑う彼は、ちょっと……可愛い。だ、だめだってば。わたしにはリヴァイ兵長がいるでしょ! なんか大きな子が両隣ってすごく、変な感じ。いつも兵長の後着いてるもんなー、わたし。

「べ、る、と、る、と。べるとゆ……ベルトル、ト!」

 おお、言えた! ちょっと怪しかったけど、言えた!

「は、はい?」
「練習してるの。名前で、呼びたいから」

 そう笑うとフーバーくんの顔が赤くなる。「おい、何恥ずかしがってんだ?」「ライナー、うるさい」「……はいはい」本当に仲良しなんだなあ。だって、こんなにしゃべってるの初めてみたもん。

「――っと、あれ。あの一番上の、届くかな?」

 倉庫に着いて、目当てのものを指させば長い腕が伸びた。うわっ、本当に大きい。背伸びもせずに取り出すって、なにそれ。ライナーくんが受け取り、「これで全部ですか?」埃を払ってくれる。

「うん。ほんとうにありがと。あ……、ベルトルト、しゃがんで?」

 不思議そうに首を傾げてから、わたしの高さまでしゃがんでくれる。頭に手を伸ばして、荷物を降ろした時に被ってしまった埃を払う。……髪の毛柔らかいな。コニーとはまた別で。あ、鼻高い。肌綺麗……羨ましいね、若いって。「あ、あの!」きょろきょろと動く目。「ん?」「もう……いいですか?」あ、すっかり忘れてた。っていうか見とれてたわ。

「ご、ごめんね! ついつい綺麗な顔立ちだから見とれちゃって」
「見とれ……」
「良かったな、ベルトルト。ナマエさんに褒めてもらえて」
「ライナー!」
「2人ともほんとうに仲良しだね。ベルトルト、ベルトルト、噛まなくなった!」
「えっと……ありがとう、ございます」

 何この子……めちゃくちゃ可愛いぞ。なんか新鮮っていうか。背の高い人なんて、みんな変な人ばかりとか思ってたけど――まあミケのせいだけどさ。なんか、104期の女子の間でもベルトルトくんが格好良いとかそんなこと言ってた気がしないでも……。長身で、成績優秀で、無口とか、高スペックだな! 

「ベルトルトくん……お願いだから、みんなのベルトルトくんでいてね」
「はい?」
「じゃないといつしか事件が起こるから。おかしいな、わたしはコニーを推してるのにな。今の子達は背の大きな方がいいの? 兵長確かに小さいけどさ、でも格好良いよ? ベルトルトくんには敵わないかもしれないけど、でも本当に恰好良いんだよ!」
「コニーはどこに消えたんだ……。っていうかサラリとオレを無視しないでくれ」

 そんなライナーくんの言葉が聞こえて「わたしはライナーくんも好きだよ?」そう言っておけば、やっぱり期待を裏切らない。わー真っ赤だ。可愛いな。

「ナマエさんって……いや、いいです。なんでもない」
「なにー? 言いたいことがあるならハッキリ、ね?」
「……オレ達で遊んでるんだろ」
「ライナー、失礼だろ!」
「おかしいな、わたしはいつでも本気だよ。後悔したくないもん」

 せっかく生きているんだ。いつ死んでもおかしくなかった状況で。言いたいことを言えないで……そんな後悔をもうしたくない。

「いつ死ぬかわからないから、あの時あーしておけばよかったなんて後悔、もうこりごりなの。それだけ。そりゃあ、こんなんしてても後悔するんだよ。仲のいい子だって死んじゃうし。その分、泣いてきたけど――どうか、した?」

 2人が目を見開いて、それから罰の悪そうな顔を浮かべる。「いえ、何でも……」ライナーくんが俯く。「あ」

「ライナーくん、好きな人がいるならなおさらだよ。後悔したまま死ぬのは避けようね」
「な、そんなのッ!」
「協力するからさー、ね、ベルトう……」

 噛んだ。ベルトルトくんはわたしを見て苦笑いする。「ベルトルト、です」……なんだろ、背の高い妖精さんに見えてきた。「ベルトルト、ね」「はい」きちんと呼べばほんの少し、口端を上げて。

「用もないのに呼んだら怒る?」
「えっと……?」
「うるさい、かな?」
「そんなことは、ないです、けど」

 ベルトルト、ベルトルト、ベルトルト。噛まないで3回言えたら、いいことあるんじゃないかって思ってしまう。だって、名前を呼んだら優しく微笑むベルトルトくんを拝めるだから。「ベルトルト、ベルトルト、ベルトルト」「はい」――ああ、可愛い。

ベルトルト、3回噛まずに言えるかな
(「だからオレ無視……」「やだな、ライナーくん。絶賛応援中だよ!」「あの、そろそろ戻りませんか?」「あ、やっべ。怒られる……。教官、待って、団長に報告しないで!」「ライナー、面白い人だね」「……ああ」)

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