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 降り注ぐ日差しが容赦ない。じとじとと汗ばんだシャツを仰いでみても、さして暑さは変わらなかった。「あついねー」隣で同じように仰ぐその姿にぎょっとした。……おい、ブラみえてんぞ。チラチラと視界に入るピンク色。つい溜息をついて、そっと視線を外すことにする。

「ジャンー、アイス買お?」
「あー、コンビニ寄るか」
「ジャンケンで負けた方の奢りね!」

 ナマエは、食べ物や飲み物でだいたいジャンケンをしたがる。そして8割方負ける。それなのに、いつものように1人張り切って、仕切って、出されたグー。結局、いつもと同じ。「オレの勝ち」唸る声。汗で額にくっついた髪に触れ、「すっげー汗」笑う。うるさいな、もう。とふてくされるその顔ももう見飽きる程だった。

「はい、半分こ!」

 そう渡されたパピコ。「いただきます」礼を言って、穴に指をかける。引けば、すでに溶けかけた中身に慌てて口をつけた。

「んー、あかなっぎゃあ!」
「なに……してんだ?」

 力強く引いて、顔や服にアイスがかかる。「ショック……べたべただ」それ、わざとか? オレを誘ってんのか? とりあえず頬についたアイスを拭って、指を舐める。ん、甘い。「ジャン交換しよ」「なんでだよ」「そっちのが多い! わたしが買ったのに!」それは自分が悪いんじゃないのか? しょうがないやつ。すでに口を付けた先端を、今も文句を言い続けるそこに突っ込めば、ぴたり音がやむ。

「ひゃんって、ひゃっほいいよね」
「あ、なんだと?」

 既に半分と少ししか残っていない片方をオレに手渡して、何かを言った。咥えながらしゃべんなよ、わかんねえ。「だから、かっこいいよねって。幼なじみでよかった! ジャン大好き!」……おう、そうか。オレは一刻も早く幼なじみの位置を止めっちまいたいがな。そんな思いも知らないで、緩んだ顔見せんなバカ。

「でもね、今日もマルコは優しかった。ほんと、好きだー」

 ──オレよりも? なんて言えずに頷く。「そうか、良かったな」嬉しそうな顔、その時ナマエの頭にはマルコがいるらしい。笑った顔も、ふてくされた顔も、もう見飽きた。唯一欲しい、その恋い焦がれたような表情だけは、オレにくれないのはどうしてだろうか。

「ジャンとマルコが仲良しなの、運命だよね! ああ、そのまま付き合えたりとかしたらいいのに!」

 どうすれば、この関係を壊せるのか。幾度となく考えて、結局いつも通りだ。情けないことに痛いこの立ち位置も、お前から離れなければいけないよりなら良い気がするんだ。「ジャンー」オレの好きなその声で、いつでも呼んでくれるなら。

「あ?」
「アイス溶けてるよ」

 手元に握られたソレは、オレの熱と外の暑さで既に固体から液体へと変化していた。口を付けて一気に傾けると、口内から喉へ甘ったるいどろりとしたものが通過する。「まっず……」甘い、甘すぎる。

「もう、せっかくわたしが買ったのに!」

 美味しく食べてよ、バカ。バカっつーな、このバカ。昔はオレより少し大きいくらいだったナマエの身長も、この気持ちに気づく頃には抜いていた。低い位置にある頭を軽く叩くと、ギッと睨まれる。

「痛い」
「痛くしてねーよ」

 痛くするわけねーだろ。お前に嫌われたら、オレどうしたらいいんだよ、1人じゃねーか。思わず俯いて、それから首を振った。

「今日もジャンの家でご飯食べていい? 誰もいないんだー」
「ああ。食べてけ」
「じゃあ早く帰ろっか。おばさんのお手伝いしないとねー」

 制服のスカートがひらり、揺れる。最近、暑さのせいか更に短くなった丈。少しだけ焼けた太ももがそこからすらりと伸びている。「なあ、お前、太った?」後ろから声を掛ければ、凄い形相で「バレた!」と声を上げる。それくらい、わかる。何年一緒にいると思ってんだ。誰よりもわかってる、誰よりもわかっているから辛い。

 ――どうせ、オレなんか眼中にねぇんだろ。

 口の中は嫌気が差すくらい甘いのに、心の中は苦さいっぱいだなんて、ふと思って自嘲した。伸ばせば簡単に手が届く距離。だけど伸ばさない。これ以上、好きになったら辛くなるのはどうせオレなんだ。

「マルコ、気付くかな? どうしよう、痩せなきゃ」

 オレ以外の誰が、ナマエのその変化に気付けるんだろうか。そんなヤツ、いらねえよ。オレだけでいいじゃねぇか。ジリジリと照りつける太陽に、こんな気持ちも溶けてしまえばいい。そうしてなくなってしまえば、昔みたいにフラットな関係でいられるんだけどな。

「ジャンー、はやくー、暑いー」

 今だけでいい、この一瞬でもお前がオレを見ていてくれるなら、それすら幸せだって言ってやる。「わかったって」隣を歩けば微妙な隙間。どんなに暑くてもこれがピタリと埋まる日が来ることを願って、空を仰いだ。


(甘すぎて吐き気がする溶けたアイスクリームがまるでお前のようだと飲み干した)
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