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 両手を差し出せば、一瞬困ったような顔をして、それから首を傾げた。どうして、伝わらないかな。つい、溜息が漏れる。「なんだよ」少し、不機嫌そうな声。わたしは両手をそのままに「ん」と、それだけ。

「はあ?」
「……ジャンってさ、もうちょっとわたしに興味とか持ってもよくない?」

 何だよ、それ。ジャンが頭を掻く。ぐっと眉を顰めて、「あるから付き合ってんだろ」そう言ってくれたけれど、わたしが欲しいのはそんな言葉じゃなくて。もっと、歯痒くなるような、甘い言葉が欲しい。別に、毎日囁いて、なんてことは言わない。でも、時々すごく不安になって、もしかしてわたしだけが好きなんじゃないかって、落ち込む。「すき」も「あいしてる」もわたしばかりが言ってる気がする。別に、それはそれでいい。嫌がられたことなんてないし、照れくさそうに「おう」と返事をするジャンだってわたしは大好きだ。でも、でも――。力なく、腕が下がる。

「ぎゅって、して欲しい」

 そう素直に言えば「どうしたんだよ、急に」と目を見開く。「だめ?」聞けば、「いや、駄目とかじゃねえけど……」そう言って、わたしを抱きしめる。ああ、あったかいな。ジャンの匂いがする。すっごく、幸せだ。

「恥ずかしくねえ?」
「……何が?」
「いや、まあ誰もいないからいいけどよ」

 触れて欲しいって思う。キスして欲しいって思う。「すき」って言って欲しいし、ずっと側にいて欲しい。わたし、すっごく欲しがりだ。きっとジャンに何も与えることなんてできないね。わたしばっかり欲しがる。ぐっと胸を押して見上げれば、ジャンと視線がかち合う。「何か、あったのか?」その表情は、すごくわたしを心配しているようで。つい、嬉しくなる。ああ、わたしのこと考えてくれたんだって。

「ううん。何も」
「ならいいけど。ナマエ、そういうこといつも言わないだろ?」

 確かに、思ってるだけで口にはしない。だって、こんな欲張りな女、嫌にならない? 怖くならない? そんな不安に苛まれて、気持ちに蓋をする。それが、少しだけ溢れたの。だから、抱き締めて欲しくなって手を伸ばした。でもジャンは気付いてくれなかったね。やっぱり、わたしばかりがすきだ。きっと、そうだ。

「……こういうの、言われるの嫌?」
「いや、言われ慣れてなくて驚いた。つーか、可愛い、と思った」

 ふいと顔を背けて、そんなことを言う。なに、それ。そんなこといつも言ってくれないくせに。嬉しさが込み上げて、それとちょっぴりの恥ずかしさも。ふたつが入り混じって顔が熱くなる。「なんでお前の顔が赤いんだよ、バカ」「バカっていうな、バカ」なにこれ、周りがみたらただのばかっぷるだね。思わず笑ってしまう。

「ジャン、すき」
「……おう」
「おう、じゃなくて!」

 手元の布をぎゅっと握る。「服、伸びるだろうが」手が頭を軽く叩く。「言って?」しっかり、わたしを見て。答えて欲しい。ほら、やっぱり欲張りだ。「なんか、照れんだ、よ」そう言って、代わりに口付ける。――キスは恥ずかしくないのに? 変なの。わたしは「すき」って言うより、自分からキスする方がすっごく恥ずかしいのに。男と女の違いか。それともジャンの恥ずかしがるポイントが人とズレてるのか。そんな考えも、次第に熱に浮かされ消えて行く。口内に侵入した舌に絡めとられ、息が苦しくて。いかに呼吸をするかだけを考えて、でも、それすら考えられなくなって。酸素が足りない。「ん」離れて、息を吸って。「お前、へたくそだよな。なんで死にそうなんだよ」わたしの唇を舐めて、ジャンは言った。「息できなく、なる、の!」あなたの愛に応えたくて、必死になればなるほど、呼吸を忘れる。くったりと胸にもたれていると、髪の毛を弄られる。触れて、指に絡めて、解いて。それだけで、きゅんとして。でも、まだまだ足りなくて。

「ジャン」
「あ?」
「もっと、したい」

 バカだろ。そう聞こえた。ほんとうに、そうだ。「お前、今日、めちゃくちゃ可愛い」軽く唇に触れて、離れて。「もっとって、これか? オレはそれじゃ足りねぇ」そう言って、服を脱がしにかかるものだから、慌てて手を掴む。「あ?」低い声。

「お前だってついさっきまで欲張ってただろ?」

 ああ、そうか。そうだった。わたしばかりが欲しがりだと思ってた。触れて欲しくて、ただその一心で。でも、ジャンもそうなんだね。わたしが、欲しいって思ってくれてるんだ。――つい、笑みが漏れる。それを肯定と受け取ったジャンが、荒々しくわたしの服を剥ぎ取るものだから、「欲しがりだね」そう、言ってみる。

「ナマエだけな。あとはいらねえよ」

 それは、「すき」より恥ずかしい言葉なんじゃないの? 本当に、変な人。肌を這う手のひらが熱い。ジャンの吐く息も、触れている体も、全部。すべて飲み干してしまえたらいいのに。そう思っちゃうのは、やっぱり欲張りなんだろうか。

 ジャンがわたしの首筋を、鎖骨を、胸を、吸っては痕を散らしていく。「そこ、見えるって!」言ってみたものの、もう遅い。ジャンは何も言わず、ひたすらキスを落とす。きっと、これが彼の欲なんだろう。そう思うとなんだか嬉しくて、堪らなく愛おしい。

「――好きだ」

 そう、耳元で囁いて、恥ずかしそうにするジャンの全てが欲しくて、その体に腕を回した。わたしもすきだよ。すきで、すきで、たまらない。どうしたらこの気持ちをわかってもらえるか、わからないけれど。ぎゅっと腕に力を込めた。「動けねえよ」そう、笑う彼がすきすぎておかしくなるほどに。

笑って、囁いて、息をして、それだけで
(満たされて、また足りなくなって、求めて、求められて)
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