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 思い切り、打った。背中を、強打した。一瞬息の吸い方を忘れて、声にならない声が漏れた。「――ッ、はぁ、はぁ」胸が上下している。大丈夫、大丈夫。痛みもすぐに引く。

「ナマエ、そのまま、動かないで」

 さすがに地上から2mの場所から落とされて受け身取り損ねると、こうなるか。ベルトルトの泣きそうな顔と、懸命に声をかけ続けてくれるライナーとエレン。辺りがざわめき始めて、人が増えてくのが申し訳ない。大事をとって頭を動かさないように固定されている、ようだった。じんじんとしていた背中の痛みも引いて来て、息も深くできる。

「だい、じょうぶ」
「いや、一回診てもらおう。教官なんでこんな時に限っていねえんだよ」

 ……ジャンが優しいなあ。レアだなあ、なんて思っていたら体が浮いた。「ゆっくり動くから」えっと、ベルトルト?

「わたしが一緒に!」
「ああ、クリスタ頼む」

 クリスタ、着いて来てくれるんだ……女神だ。「気持ち悪いとか、ない?」そんな声掛けをしてくれて、大分落ち着いてきた。担当医は医務室不在で、ベッドに横たわったわたしとベルトルトを残してクリスタが呼びに行ってくる、と出て行った。

「……あれかな、みんな収集かかってる、とか」
「当直くらいはいると思うけど……時間かかるかも」
「ごめん、ベルトルト。受け身、とれなくって」
「ううん、僕の方こそごめん。最後、ゆっくり降ろしてあげれば」
「そんなの訓練にならな……ッ」

 服がすれて背中が痛い。きっと擦り傷が出来てるんだと思う。こんな時に限って暑いからとジャケットを脱いだ自分を恨みたい。「背中、痛い? ちょっと見せて」とわたしの腕を引っ張り上げ、起き上がらせると後ろへ回って服の裾を掴む。

「傷、見るだけだから」

 そう断りを入れるのがなんだか紳士らしくて。「うん、ありがとう」外気にさらされた肌、「擦れてる。待って、消毒してあげるから」と一度離れたベルトルトがアルコール臭のキツイ消毒液を持って戻って来る。

「それ、しみる……よね」
「うん、そうだね。嫌だ? でも消毒はしないと」
「……うん」

 ぎゅっと目を瞑って、その痛みを待ちわびると、ぬるりとした感触。「え」なに、消毒液、え、何?「ん……。だって、しみないよ?」こっちの方が。慌てて後ろを見れば、わたしより遙かに大きいはずのベルトルトがかがんで腰を掴んでいる。そのまま下から、上へ、舌で舐め上げているのは夢か幻だと信じたい。

「やっ、なに、ちょっと!」
「ナマエ、すごく綺麗だから」
「い、意味わかんない!」
「僕、女の人の背骨がすきなんだ」

 ――それ、すっごく変わってる! なんて言う暇もなくパタパタと足音がしたのでベルトルトが離れる。「残念」……あれ、こんな意地悪な顔する、の?

「また、舐めさせてね」
「え?」

 もしかして、舐める為にわざと……! と疑いそうになるのを必死で堪えて、痛みよりも熱くてたまらない肌を隠すようにして、服を下げた。クツクツと頭上から聞こえる乾いた笑い声に、ベルトルト・フーバーは普通じゃない。と確信した。

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