堕落した生活 | ナノ



Side A
 雨に濡れて震える体を抱きしめようと手を伸ばして、諦めた。どうせ全て無駄だ。優しくしたって、笑ったって、自分が虚しいだけに違いない。「シャル……?」そんなか細い声で、名前を呼ぶなよ。触れたくなる。滅茶苦茶にしたくなる。――苦しくなる。
 一度でいい。たった一度でいいから。弱り切った時にでも、フィンクスを忘れたい時でもいい。オレを求めてくれないか。そうしたら、「ナマエ」と名前を呼び続けるよ。例え、全てを捨てても「好きだ、愛してる」と、初めて芽生えたこの感情を口にするのに。

You must notice it.
(愛した分だけ愛されるという幻想)

Side B
 窓枠の隅に映るのは泣き疲れて寝たはずのナマエだった。雨を気にも留めず、ぐちゃぐちゃに濡れた地面に膝を抱えて座っている。バカな女。そう、何度も思っては読みかけの本に視線を戻す。見る、戻す。繰り返す。見る、ナマエは時折顔を上げて辺りを見回した。戻す、『感受性が強すぎると不幸をもたらし、』見る、そうして懐から取り出した携帯に触れた。戻す、『感受性が無さすぎると犯罪に導く』「……ヘンな言葉」それなら、ナマエは不幸だ。誰よりも、不幸だ。そして茶番に付き合わされるワタシ達の不幸はとりとめもない。「ワタシ、不幸だたね」1人、呟いて窓の外を見る。いつの間にか晴れた空。その下で手を伸ばしかけたシャルナークの不幸を垣間見た気がして、結局読書に没頭することにした。

You must notice it.
(両極端を背負っている)

Side C
 こうして追って来て欲しくて雨の中を駆け抜けた自分を愚かだと思う。辺りを見回しても、来た道を振り返っても結局フィンクスはいない。そんなことわかりきってる。腕に抱えた膝をぐっと絞めると、なんだか本当に1人ぼっちのようで自然に涙が溢れた。どうして、いつもわたしは孤独なんだろう。どうして誰もわかってくれないんだろう。そうしてシャルを呼ぶ。何があっても駆けつけてくれるシャルの気持ちを利用している。本当は、気付いてるんでしょ。全部、全部わかってて来てくれてるんでしょ。あえて辛い道を選択するシャルも、その気持ちに気付かない振りをするわたしも、求めては突き放して求める、そう繰り返すフィンも、あのバカなアイツも、みんなみんな愚かで汚い。

You must notice it.
(その思考を捨てた途端幸せになれるってこと)

Side D
 「フェイ」声をかけて、トビラを開けた。ヒュンと音がして投げられた本を手に取る。「……なんだ?」「別に、嫌になただけ」珍しいな。オレの呟きにフェイタンがちらっとオレを見た。「集中できなかたよ」そうして窓の外へと視線を移す。ああ、そういうことか。納得して、窓を避けるように部屋の隅に腰掛けた。「シャルも災難だな」「2人の問題ね。迷惑よ」「そうか? アイツ1人の問題だろ」

「幸せを求める相手が間違ってる」

 ただ、両腕を伸ばすとするりと抱き留められる。そうして笑う。それはあまりにも強すぎて、オレを蝕む。捕えて、離さない。

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(結局ココは蟻地獄)




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