堕落した生活 | ナノ




 真っ白の歪な形のピースを、しばらくの間眺めてからクロロは真剣な顔ではめ込んだ。細く角張った指先がスッと一点に集中して、これまた綺麗にはまった。その驚きは、もはや驚きを越えて疑いへと変わる。本当に難しいのだろうか、もしかしたら意外と売り文句だけだったのかもしれない。

 床にばらまかれた真っ白の欠片を、視界いっぱいに映し出して1つ、手にした。「はい」クロロはそれを無言で受け取って、一目見ただけでわたしの手のひらに返した。

「違うな」
「えー」

 彼が顎をくいっと上げた。なんだ、その顎で示すというのは。これは本当にバカにされているに違いない。手のひらのピースと、少しずつ隅から出来上がっていく塊を見て、あちらこちらと試してみて惨敗した。参りました。わたしはそれを散らかった白へと放った。

「難しいか?」
「お手上げ。面白くないし」
「そうかな。シャル辺りは楽しむんじゃないか」
「シャルくんとわたしが同じに見える?」

 いや。クツクツと喉元を鳴らしながら、ひょいっとピースを摘まんではめた。おかしいな。なんでわかるんだろう。

 ミルクパズル、というそうだ。真っ白な絵も何もないただの白。果たしてこれが何になるんだろう。結局は白い厚紙のような、そんなものにしかならないのに。けれど、クロロはそれを好んだ。海の絵や、空、どこかの南国や夜空。そんな美しいものよりも、コレがいいのだと言う。その理由はさっぱりわからないし、それがわかるならわたしもパズルを存分に楽しめるはずだ。

 絵を頼りにはめることができないため、とてつもなく難易度が高いという。それをまるで結ばれた蝶々結びを解くかのようにスルリとやってのけるこの男のなんと恨めしいことか!

「あんまり怒るなよ」
「怒ってない!」
「短気には向かないだろうな」
「……ヒソカに見えてきた。意味のないものを作るところとか、クロロも属性は変態だよね」

 ピクッとクロロの肩が動いた。

 最近、メンバーに加入した彼は一般人のわたしから見ても少しおかしなところがある。ほとんどホームに寄り付く様子も見ないが、時折ふらりとやって来ては、ホールの片隅でトランプタワーを作っている。わたしはソレを完成させたことがなかったので、そうかヒソカはとても器用なんだな。奇術師とはこういうものなのか。と妙に納得して、静かにその場を離れようとした。踵を返した途端、後ろから笑い声が聞こえたので、反射的に振り向くとタワーがぐしゃりと床に伏していた。「あ」思わず上げた声に「キモチイイだろ?」と、彼は言った。そこからわたしの中で変態というレッテルを貼られた可哀想な新入りさんと奇しくもここの団長さんは同じということになる。

「……明日仕事だったな。早く帰れ」
「はーい」

 どうやらよっぽど堪えたらしく、クロロの部屋から追い出される。バイバイ、と手をひらひらさせて見たが、その相手は白いピースにぞっこんらしい。……なんて思っちゃうと、わたしがクロロを好きでパズルなんぞに嫉妬している痛い子みたい。その考えが意外にツボにはまって、頭の中でパズルちゃんなんてキャラクターが出来てしまった。

 パズルちゃんは、クロロを虜にするくらいだからナイスバディだね。ああ、肌はもちろんミルク色。艶々なの。そんで性格は……。

「ナマエ?」

 はっと現実に戻された。パズルちゃんはどこか遠くへ行ってしまって、それと入れ替わるようにしてシャルくんが目の前にいる。「うわ、びっくりした」「それはこっちのセリフなんだけどな」「えー?」一体何に?

「ニヤニヤしながら1人で廊下歩く女の子ってどうなの?」

 今帰るなら送ってあげるよ。シャルくんは笑いながらそう言ってくれた。わたしは大きく頷いた。「じゃあ、パズルちゃんのお話する」「何それ」「それは車の中でね」

 こんな日々を過ごせることが、どれだけ素晴らしいことか。わたしはシャルくんの後ろで、その思いを噛みしめていた。


(笑って、バカみたいにじゃれて、変なことに没頭して。それってすごく健全で素敵な1日なんじゃないかって思うんだよ)




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