「――という訳で、ご同行いただけますね?」
Yes or Yes
それ意外の答えなど最初から用意されていなかった。既に車内。まだ動いてはないが、わたしの一言で向かう先はククルーマウンテンだというから驚きである。
さっきまでは休日を悠々と過ごしていた。チャイムが鳴って、扉を開けた後の記憶はない。起きた時には、黒スーツを着込んだ何名かに囲まれ「ミルキ様がお呼びです」と告げられた。全くもって記憶にないその名前に首を傾げると、「ゾルディック家の、次男にあたります」と言われ、身震いした。
平々凡々と過ごしていたわたしにとって、思ってもみないことだった。もちろん、パドキアに住む者として彼らの噂は知っているし、デンドラ地区は目鼻の先だ。もしかしたら、いつぞやのお客様が次男で、わたしはとんでもない失態を犯してしまったのだろうか。
「1時間程度で着きますが、ナマエ様はお休みになられては?」
「いえ、さっきまで熟睡していたようなので」
嫌味も大して気にならないのか、男は「そうですか」と一言。その後、飲み物はいらないか。お腹は空いていないか。寒くはないか。と質問攻めに合い、都度「大丈夫です」と答えた。
「ココが本邸になります。ミルキ様のお部屋まで案内します」
その壮大さに腰を抜かしかけたわたしをよそに、男は颯爽と歩いていく。慌てて着いていくと、なんだか緊張してくる。この対応の良さでは、殺されることはなさそうだ。とも思えたし、逆に死ぬ間際だから優しくされているともとれてしまう。わたしの緊張など知らずに、大きなドアの前でピタリと止まった男は、コンコンとノックした。
「ミルキ様、ナマエ様をお連れしました。お通ししてもよろしいですか」
数秒遅れで返事が聞こえる。ドアが開かれた。まず視界に入ってきたのはフィギアだった。それから、大量のパソコン。……殺し、屋?
「それでは、中へ。後ほどお迎えに参りますので」
「は、はい」
正直な話、拍子抜けというか。なんというか。わたしのほうを振り返るのは巨体の男――と呼ぶには若いか。まだ、幼くみえるのは顔が丸いからかもしれない。
「まあ、座れ」
1つの動作のたびに、鼻息が聞こえる。わたしは指さされた椅子に腰を掛けた。ミルキ様、と呼ばれているこの人がわたしを呼んだ張本人で、殺し屋。
「お前、ここで働け」
「……はい?」
この脂ギッシュ(ミルキ様)は、鼻息を荒げながら何を言っているんだろう。
「この写真、見覚えあるか?」
見せられたのは、先日花屋の前で撮られたものだった……のかもしれないが、服が違う。丈の短い赤いチャイナドレス。胸の谷間がくっくりと見えるようにハート型の穴が開いている。
「キラジェネのジュナだよ、ジュナ!こっちが本物」
「あの、こんな服着た覚えは……」
「合成だろ」
あの青年、何をしてくれてるんだ。おかげでゾルディック家の次男に目をつけられてしまったじゃないか。確かに、ジュナ?に似てるけど、胸とそのキメ細かい肌はわたしにはない。そんな恥ずかしい服着れない。
「これから、このコスプレしてオレに仕えろ」
「は?」
「これは命令だ。逆らったらコロス」
背筋が凍った。殺されるのもコスプレもお断りしたいです。