堕落した生活 | ナノ



お姉さん、声をかけられた、大通り花屋の前。振り向くと、平均よりは低めであろう身長の青年が俯むいて立っている。
「はい?」
振り向けば、青年はいかにも良さげな一眼レフのレンズをコチラに向けた。

「写真、お願いしてもいいですか?」

 断る理由はなかったので、手を差し出す。青年は何故かはにかんで「そうじゃなくて」と、カメラを持たない方の手で首筋を掻いた。

「お姉さんを撮りたいんだけど、ダメかな」
「わ、わたし? え、どうして、ですか」
「……死んだ、彼女にソックリだから」

 そんなことがあるのだろうか。そうは思ったが、顔を上げた青年の真摯な眼差しと、潤んだ瞳が、事実だと語る。別に、減るもんじゃないしな。「いいですよ」と承諾すると、彼は微笑んだ。

「ありがとうございます」

 色とりどりの花を背に、私はカメラに視線を注いだ。



 昼下がり、大通り花屋の前、1枚の写真が、運命を悪戯に弄ぶなんて思いもせずに。





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