堕落した生活 | ナノ



わたしが中学生の頃、それはもう10年も前に遡ることになる。高校は1人、遠くの学校を受験したし、今でも交流のある友人は数人程度だ。仲良し以外は全く出会うことなく、この日を迎えた。同窓会だ。休日だったが、わたしは仕事だったので、後からの合流に気後れする。緊張と不安と申し訳ないのとが入り混じった感情の中にふつふつと現れるのは、幽助くんは来るのだろうか。という気持ちだった。あれから随分と立った。恋もしたし、数人と付き合った。ただ、あの時の彼が今でもわたしを支配する。

繁華街の鬱陶しい音を背に、学生時代の教室を思い出す。そういえば、あの日も朝から冷たい風が吹いていた。登校中、風で解かれるマフラーをしきりに巻き直していた。寒々しい日だと思っていたが、それは記憶が曖昧だからかもしれない。ああ、そうだ。遅刻したんだ。騒がしい通学路があまりにも静かで、寂しい気持ちになった。最後の角を曲がると、彼と小さな火が見えて、それがすごく嬉しかった。じゅっと音がして、「遅刻か」とわたしを見るのは彼だ。

「うん。寝坊したの」
「優等生さんがよぉ」
「やめてよ」

おどけて言う幽助くんを尻目に、くつくつと笑みがもれた。こんな一瞬すら愛おしい。愛おしくて堪らなくなる。この時はまだ、優越感だと思っていた。学校中から恐れられている不良と、仲良く話せているんだよ。そんな気持ち裏腹に、恋だということに気付けずにいた。もしかしたら、そう思うことで惨めなわたしを慰めていたのかもしれない。

「螢子ちゃんは?」
「んあ? シラネ」
「ふーん」
「なんだよ」
「仲良しだよなー。って」

傍から見て、二人は相思相愛だった。幼馴染より、もっと遠くの、わたしの知らないナニカを知っているような気がしていた。それが許せなかった。悔しかった。――辛かった。

「フツーだろ」
「そう?」

幽助くんは、何回か瞬きをしてふいっとソッポを向いてしまった。そのままコチラを見ようとはせず、懐を探り始める。ぐしゃり、握り潰された煙草の箱がまるでわたしのようで。彼の手の内にあるわたしの心なんて、そんなもんだろう。

「オイシイの?」

さあな。カチッ、カチッ。ふう。別世界だった。その副流煙は風に乗ってわたしの肺に吸い込まれていく。正直、父の吸うタバコはあまり好きではなかった。髪も、服も、臭いがつくから。でも、幽助くんは違う。その匂いは彼とわたしが唯一共有するものだ。

「体に悪いんだよ」
「別にイイ」
「子ども、欲しくないの?」

純粋な疑問だった。いつかの保健体育の授業で学んだことが、不意に思い出され口から出た。幽助くんは、また「さあな」と煙をはいた。

「セックスは好きだけど、ガキは好きじゃねぇし」

大人、だと思った。そのわたしの知らないナニカを彼は知っていて、その相手は容易く答えが出た。ほら、わたしは煙草の箱。彼女は幽助くんを作る1本だ。

吸いつくされて、体の一部になる彼女。
空になって、ぐしゃりと丸まって捨てられるわたし。


そう思ってから、不思議と会話がなくなった。そのまま顔も合わせることなく、別々の道を歩むことになる。




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