澄み渡る青を見上げた。腹立たしい。どうしてこんなにも晴れているのだろう。「ほら、君の代わりに泣いているよ」そんな陳腐なセリフを吐いたあの俳優の名も、当時"泣ける"と話題になった映画のタイトルもからっきし思い出せない。ただ、その一文だけがパッと現れて、私の胸の傷を抉っていく。
頬をとめどなく濡らすのは、さっきまで幸福に満ち溢れていた喫茶店で飲んだレモンティーだ。それが、ほら、酸が目に痛いほどに染みて出てきているに違いない。
「ねえ」
唐突に後方から肩を叩かれた。こんな端から見たら"イっちゃってる人"にも声をかける勇者(はたまた同類)も、世の中にはいるらしい。
「空見上げる時は、泣くの堪える時でしょ?」
そう言いながら、上から覗き込むようにして人の顔がぬらりと現れた。影になって(しかも視界は悪い)よくはみえなかった。ただ、太陽に照らされた細い髪がキラキラと光っていて、涙を通して見るとイルミネーションのように輝いていた。
「て、天気予報では」
「天気予報?」
「今日は雨だった。降水確率80%。お姉さんもそう言ってた」
お出かけの際は傘は必需品。それでは今日も元気にいってらっしゃーい!溌剌とした声で、わたしを見送ったはずだ。
「ほら、空の代わりに泣いているよ。わたしが!」
こうなったらもうヤケだった。レモンティーを飲み干した直後に「オレ、他に女出来た。だから別れて」と去っていった彼氏……元カレ。急いで追いかけて、結局このざまだ。
「それ、反対でしょ?"空に願いを"」
「知ってるの?」
「知らない人、少ないよ」
そういえば、そんなタイトルだった。ありきたりの恋愛映画。ああ、そうだ。彼と見に行った最初の映画。
「そのセリフのあと、わかる?」
「……あと?」
「こうして」
イルミネーションが視界から消える。暗転。何が起きたかわからない。
「あんな奴のために泣くなよ。オレがいるだろ」
The movie is now at the here
(それは1コマ。それは日常にて。それは喜劇のように)