macaron momen | ナノ

07

 こんなオレを神様は気にかけてくれ、プレゼントをくれたんだろうか。勝手な都合で「殺してほしい」と金を積み上げたアイツ等も、それを生業にして生きていくオレも罪なら幾らでもあるのに、ただ愛されたいと願うのは強欲なんだろうけど。

 好きとか嫌いとか、そんなんじゃなくてこの仕事に価値を見出せないのが嫌だった。外の世界は門を越えれば広がっているのに、そこまでが遠すぎる。と、思うしかなかった。欲しいものはココから出なくても手に入り、それは一見とてつもない幸福のようで結局はココから出るな。という警報にしかすぎない。ということにも、この年になるとさすがに気付いてくる。

 でも、フツーの生活や友達は、一番欲しいものは何も与えられなかった。それは、考えてみたら金のないガキがお菓子が欲しいと駄々こねることと同じだ。もしかしたら金はあるのに、欲しいものもあるのに買わないオレの方が分は悪い。

――だから、大きな窓越しにオレを盗み見るナマエがプレゼントだと思った。



「キルアくん、今日はアップルパイを作ってみたけど食べる?」

 オレが恋い焦がれた日常が舞い降りてきた。神様なんて信じてもいないのに。ナマエはオレの欲しいもの全てを与えてくれた。でも、これも結局は与えられた。兄貴だ。幸か不幸か、ナマエは兄貴の差し出した条件だということが手に取るようにわかった。

 欲しいものはやる。だから、ここから出ようなんて逆らおうなんて思わないことだ。

 毒のないアップルパイ。美味しいと感想を述べたら返ってくる笑顔。嬉しい。この気持ちはなんだろう。兄貴の言うことなんて聞くなよ。兄貴なんか見るなよ。オレだけに笑ってくれ。……できれば、兄貴なしでオレを。

「ごめん、ちょっと眠くなってきた。ゲームしてて。お昼寝してくる」
「……オレも」
「お腹いっぱいで眠くなるよね」

 そうじゃない。眠くなんかない。1人にするなよ。オレから離れないでよ。同じ布団に潜り込んで目を瞑ると湧き出る感情。全て独り善がりの一方通行。これは、なんだ。

 上から聞こえる寝息。触れる温かな体の一部。さすがにいかにも女らしい、丸みを帯びた場所には触れる勇気もなかったけれど。ドキドキも、それはいつの間にか治まってとうとう眠気になる。

意識の飛ぶ直前に「――」」聞こえた名前は耳にしたことはない。ただ、小さく「――」それは、呟きよりも囁きに似て「――」何度も、何度も何度も何度も繰り返し紡がれる。

「ナマエ?」
「――」
「おい、何だよ」

 それは男の名だ。誰だよ。大事な人?「――」ソレは、オレより大事なの?

「……ひでーよな」

 オレの言葉に返事はない。それでも、どうしても言いたくなる。

「逃げればよかったんだぜ。別に、殺されることはねーよ。兄貴、ナマエに興味ないから。逃がしてくれるのに。……オレ、みたいじゃん」

 言っていて、ナマエもまたオレと同じだと気付く。逃げれるはずもない。兄貴がココにいる限り。だったら、もしもナマエが帰りたいと思っていたら? ナマエがココにいる理由が、オレのせいだとしたら?

「あーあ。結局オレのせいだよ」

 全部、全部、全部。全ての罪をオレが背負ってやる。解放してやる。だから最後くらい、男の名前じゃなくて、オレの名前を呼んでよ。ねえ。頼むからさ。

 開きかけた口は、結局オレを呼びそうにもない。くそ、なんだよ。なんなんだよ。誰だよ、ソイツ。指を伸ばして触れた唇は、あまりにも柔らかく妖艶で。つい、何かに取憑かれたように、重ねようとして「――」止めた。

「いつか、オレだけを見てくれんのかな。ナマエ」

 だからオレは行くよ。ナマエがこれからも笑えるように。幸せになるように。神様なんか信じていないけど、ナマエと一緒にいれた日々がほんとうに幸せだったから。お前の不幸も全て背負って。だから、いつかまた会えた時「キルアくん」って呼んで笑って抱きしめてほしい。

天使不幸を背負う


▼ 順番の変更
Material from HADASHI / Design from DREW / Witten by 腎臓からレニン / 2014.05.18 修正





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