macaron momen | ナノ

06

 「ナマエ−、遊びにきた!」と、玄関先からした声。そのまま廊下を歩いている音が聞こえて、わたしは急いで畳んでいた洗濯物を、カゴに戻した。別に、わたしはそこまで恥ずかしくはないのだけど、教育には悪いよね、やっぱり。それに、見たくもないだろうし。

 ここで生活して1週間が経っていた。基本的には離れ、キルアくんの部屋を行き来することが多かった。最初の3日間は、家事全般も若い執事がやってくれていたが、申し訳なさすぎて、自分でやることをイルミに伝えた。あっさりと了解してくれたイルミは、やはりキルアくんとのこと意外は一切興味がないのだろう。他はなんとでも。というように、あっさりとしている。それどころか、大した用もないのに話しかけるなよ。と言われているようにもとれて、心なしか寂しくなった。これが、わたしとここの人たちの距離だ。

 相変わらずキルアくんは、威勢が良い。ドタドタと足音を立てるのは、ここでだけ。初日に遊びに来た時は、影からぬらりと現れて「来たぜ」と耳元で言われた。その時の驚きと、動揺が心臓に悪くてしょうがないので、ここでは騒いでほしいと頼んだ。せめてチャイムでも、とは思ったが、元々キルアくんの家の一部だと思うと違うような気がした。

「なに、服?」
「え、ああ、畳んでて」
「ぐちゃぐちゃじゃん」

 部屋に入るなり、カゴに目がいったか。それは、あなたが急に来て、玄関からの距離もまあまああるはずなのに、着くのが早すぎるからだ。とは言えず、にへらと笑ってみせた。キルアくんはわたしの顔を見て、ふーん。と小さく頷いた。

「それ、なに?」
「うん?」
「スカート? もしかして」

 一番上にあったのが、運悪くミルキ様の趣味で選ばれた(残念な)服だった。執事に服が欲しいと頼んだことを聞きつけたミルキ様が選んだらしい。「申し訳ありませんが、今着ていただけませんか?命令なので」と、震える執事を無視することもできなかった。案の定、要求がエスカレートしてきているが、執事の命のためだ。とは思っても恥ずかしい。

「ミルキ様の趣味で」
「ああ、なるほど」
「水着?みたいなのはさすがに嫌だって言ったの。イルミに返してもらっちゃった」
「兄貴が? ああ、だからか」
「え、何? 何かあった?」
「ちょーっと痩せた。ほんのちょっとな。ま、すぐにリバウンドだ」

 わたしにはよくわからなかったが、ミルキ様はイルミには逆らえないことを知っている。もし、これでしばらく洋服が届かなかったらイルミのおかげだ。意外にも話のわかってくれる雇い主に、お礼をしなければいけない。

 目の前でキルアくんは、自分の部屋から持ってきたお気に入りのクッションに体を埋めて、テレビをつけ始めた。「今日は、コレ。やっていい?」と、一応断りをいれてからゲーム機にカセットを差し込む姿が愛らしい。わたしがコーラとお菓子を用意してる頃には、既にWINの文字が写っていて、喜ぶでもなく新たなキャラクターを選んでいた。

 こうやってありふれた日常が積み重なればいい。この家族も、世の中も平和であり続けて欲しい。幾度となく思っては、キルアくんの体についた痛々しい傷を垣間見るだけで、どこか遠くへ行ってしまう。
 ぐっと体を伸ばした彼の服が、伴って上がると背中に浮かぶ傷。「新しいね」声をかけると、別にもう気にしていないのか「昨日ヘマしたから」とせわしなく指を動かす。

「ねえ」

 その声は、いつもの調子だった。コーラをおかわりかお菓子に飽きたのか思考をめぐらしていると「ツライ?」小さな声だった。キルアくんの操っていたキャラクターが相手に殴られた音が大きくて、聞き逃しそうなほど、小さい。

「なにが?」
「オレが、ここにいると」
「どうして?」
「ナマエは一般人だから。こんなの見たくない? フツーじゃない?」

 そんなことないよ。なんて言えなかった。見たくないのも、普通じゃないのも当たっている。だからといって返事をしないのも肯定がすぎる気がして、そんな自分に嫌気がさす。

「わたしはキルアくんとお話できるのが幸せだよ」

 なんだよ、それ。そう笑う少年。笑ってくれるならどんな嘘もついてあげる。
 きっとわたしは愚かで汚い。

ありふれた非日常で
わたしはをついている


▼ ほとんど変わってません
Material from HADASHI / Design from DREW / Witten by 腎臓からレニン / 2014.05.18 修正




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